実録・組織変革コンサルティング ~開発・製造部門15名の部長による事業部変革プロジェクト~第2回

私共バランスト・グロース・コンサルティングでは、半年間かけて、財閥系製造業の開発・製造部門を中心とした事業部門全体の変革プロジェクトをお手伝いする機会を頂いた。本コラムでは4回にわたり、その事例紹介をさせて頂く。(執筆:石井 由香梨)
*尚、機密性担保のために、一部事実を変更して記載させていただきます。

第2回:【変革テーマ設定】組織・リーダー自身の状態を客観的に把握し、動き始める

前回は、インタビューやアセスメントを通じて見えてきた組織が抱える課題、及び各部門の実態をお伝えさせて頂いた。

*第1回【現状把握】組織の状態を浮き彫りにする

第2回は、下記2点についてレポートさせて頂く。

■プロジェクトメンバーは組織の「今」、及び、自身の「今」をどのようにして直視したか?

■プロジェクトメンバーは組織・自身の「今」を直視した後、組織の変化、自分自身の変化を起こすために、何を始めたか?

本プロジェクトは「変革」が目的であるが、多くの場合、組織開発における変革の起点は、関係者が「今」を直視すること、つまり「今起こっていること」の奥にある自分たちのメンタルモデルに向き合うことである。そしてそのメンタルモデルからの脱却への願いに火が付くと変化が加速する。

一方、この作業はかなり難易度が高い。長年慣れ親しんだメンタルモデルは、自分や組織にとっては空気のような存在であり、無意識レベルに入り込んでいる。無意識を意識化するには、かなりの刺激と、心からの腹落ちが無ければ成立しない。加えて、見たくないものを見ることになるかもしれず、そこには痛みも伴う。見たくないものには触れずにおきたいという心理は多くの方が持っている感情ではなかろうか。

つまり、「変革」を目的にしているこのプロジェクトの成否は、プロジェクトメンバーが組織・自身の「今」のメンタルモデルを直視し、その経験を「変革」の起爆剤にできるかどうか、にかかっていた。

それでは、プロジェクトにおいて、上記がどのようなプロセスを経たのか詳細を記載する。

■プロジェクトメンバーは組織の「今」、及び、自身の「今」をどのようにして直視したか?

<組織の「今」を直視する>

組織の「今」を直視するために、まずは自分たちで事業について、組織について語り合ったが、この時点で、多く出てくるのは、所謂「愚痴、不満」であった。経営に対して、顧客に対して、他部門に対して、自部門に対して、様々なストレスを感じており、それを各々が吐き出した。部門横断プロジェクトであるが故、他の人が自分の部門への不満を言うこともあるが、それも聞きつつ、同時に自分も他部門への不満を吐き出していた。

一気に空気が変わったのは、あらかた不満を出し合った後に、一旦自部門の役割を脱ぎ、他部門の人間になり切ってもらう、という言わば演劇のような取り組みを行った際であった。

今まで自分が不満を言っていた他部門が、今度は自分が生きていかねばならない部門となり、しかも自分はその部門の部長としてメンバーを率いていかねばならないのである。その役割になりきると、先ほどの発言とは真逆の主張をし始める。まさに役割が人の言動を規定していることが如実に表れた。

1時間ほど、その役割での主張をし合っていると、ふとメンバーから、その場全体を俯瞰したコメントが出る。「役の入れ替わりをすると、個人の発言内容は変わるが、結局、それぞれの部門が、その部門の正義を言い合っているという、いつものやりとりと、何ら変わらない」というその場全体を俯瞰して、言い当てた。組織のメンタルモデルに気づき始める瞬間である。

その後、他のメンバーからも

「顧客を見て、顧客のために戦っているいるわけではなく、社内の中で責任を押し付けあっているだけ」

「他の部門の立場に立つと、自分たちの部門がどれだけ嫌な思いを他にさせていたかが分かった」

など、自分の立場からではなく、組織全体を見渡した発言が出始めた。

組織の「今」に対する自覚が始まった。

 

<「今」を直視すると、「未来」を語りたくなる>

不思議なもので、「今」を直視し、そのことへの危機感や居心地の悪さを味わい尽くすと、人はそこから脱却したくなる。開発・製造部門15人の部長同士が、少しずつ開発・製造部門の「未来」を語り始めた。

・メンバーにこれは俺が開発した!と胸を張って語れるような仕事をしてもらいたい

・営業から開発依頼を受けるのではなく、自分たちが開発の主導権を握りたい

・顧客ともっと接点を持ち、共に開発のアイデアを考えたい

・製造部門はもっと開発段階から入り込み、スムーズな量産化を実現したい

・海外工場も日本工場と同じレベルの歩留まりを目指したい

上記は、通常MBOで握られているようなことであるが、大事なのは、この「未来」が役員や事業部長に設定された「未来」ではなく、自分たちが意思と願いを込めて設定した「未来」であることであった。

 

さらに、部門の「未来」の議論の後は、会社全体の「未来」が語られた。

・〇〇業界の〇〇を変える存在になりたい

・自分の子供が入社したくなるような会社でありたい

・社会の〇〇に貢献する会社でありたい

という具合である。

未来のビジョンが語られると、そのビジョンを実現するための戦略、自部門の役割などが語られた。冒頭の不満を言い合う時間とは、がらりと空気が変わり、15人の表情に柔らかさや温かさがあった。

<自身の「今」を直視する>

続いて、自身が「今」どのようなリーダーであり、自身のリーダーシップが組織にどのような影響を及ぼしているのかを直視するプロセスに入った。

事前に成人の発達段階に則ったリーダーシップアセスメントを受けており、その結果に向き合う。本アセスメントの特徴は、他者からはネガティブに見えている行動の奥にある【守りたい価値観、願い、囚われ】を明らかにできることである。

尚、アセスメントの結果で、15人のリーダーが周りからどのように【見られている】か、下記2つのタイプに大別された(分かりやすい様に、実態より大まかに分類している)

①自分の意思よりも、周りの意思、会社の意思を尊重して行動している

(15人中12人が該当)

②自分の意思を明確に出すが、時に他部門やメンバーと衝突も起こる

(15人中3人が該当)

 

それぞれ周囲からのコメントは下記のようなものであった

  • タイプのリーダーに対して

・尊重してくれることはありがたい。一方、本心が分からないことがある

・調整が大変なことは理解するが、もっと他の部門と戦ってほしい

・方針がコロコロ変わる印象を持つ、会社の方針が変わるので仕方ないが

  • タイプのリーダーに対して

・自部門を守るスタンスが強く頼もしいが、他部門ともっとうまく協働してほしい

・考え方は分かりやすいが、それを他の人にも押し付けないでほしい

・メンバー想いである裏返しだが、高い期待値に疲弊しているメンバーもいる

この結果に対して、例外なく15名全員が衝撃を受けた。

ひとつは、自分の行動は、周りからそういう風に見られていたのか、という衝撃。

そして二つ目は、この組織のリーダーは同質化している、という衝撃。

*全員の結果を全員の意思で共有し合った

しばらくは衝撃が強く、重たい空気が流れたが、メンバー同士の対話を通じて、周りから【見えている】行動の奥に潜む、周りには【見えていない】自身が大事にしている価値観や願いが浮かび上がってきた。同時に、自分が大事にしている想いは、実は思考の囚われ(*)である可能性にも気づき始めた。自分の「今」のメンタルモデルが徐々に明らかになっていく。

(*)囚われとは、例えば「仕事は苦労しなければ成果が出ない」という考え方のような、思い込みに近い意味で使用している

 

<自身の「未来」に期待し、葛藤し、混乱する>

自分の価値観や想いが周りにさらにポジティブに影響するようなリーダーとしての在り方を全員が願った。しかしながら自分の囚われに関しては、多くのリーダーが取り扱いに悩んでいた。その囚われは今までの自分を守ってきてくれたものでもあり、愛着もある。

・それは本当に囚われなのか?

・自分は今後何を大事にして生きていくのか?

自身の「未来」に対しては、変わりたい、いや変われない、変わりたくないという、複雑な感情が去来し、葛藤と混乱が起こっていた。

 

■プロジェクトメンバーは組織・自身の「今」を直視した後、組織の変化に向けて、自分自身の変化に向けて、何を始めたか?

<組織の変化に向けて、テーマを設定する>

プロジェクトメンバー15人が侃々諤々、夜も更けるまで議論をし尽くし、組織を変えていくためのプロジェクトを3つ立ち上げた。

 

・海外工場への日本の知恵伝承プロジェクト

・開発のテーマアップ仕組み化プロジェクト

・量産化時における開発から生産への移管プロセス仕組み化プロジェクト

 

これらのプロジェクトは、今後、経営陣や営業部門、マーケテイング部門、海外工場も巻き込みながら進んでいくことになる。

 

<自分自身の変化にむけて、自身に課題を設定する>

自分の未来に向けて、自ら課題を設定すると共に、15人同士がその変化を見守り、アドバイスし合う仕組みを構築した。

次回は、【変革実行の難しさ】変革の過程で、組織間の壁や自身の心の葛藤に向き合う、と題し上記に記載したプロジェクト3つがどのように進んでいったか?個人がどのように自身の課題設定に挑んだか?について、お伝えさせて頂く。

執筆:石井 由香梨(バランスト・グロース・コンサルティング コンサルタント)
リクルートスタッフィングにて5年間営業に従事する。(5年間連続目標達成、および全社、事業部MVP複数回受賞)その後、公募制度を活用し、リクルートキャリアに出向、転籍。経営企画部門マーケティング企画部にてシナリオプランニングプロジェクト事務局、市場調査チームおよび顧客満足度調査チームのリーダーを経験後、新規事業立ち上げに参画する。
2010年より7年間、株式会社グロービス法人部門、シニアコンサルタントとして主に大手製造業に向けた人材育成のコンサルティングを担当。企業内研修にてクリティカル・シンキングおよびビジネス・ファシリテーションの講師を担当。2018年バランスト・グロースに参画後は組織開発コンサルタントとしてエグゼクティブコーチング、オフサイトミーティングの設計・ファシリテーション等を手がける。

・米国CTI認定 プロフェッショナル・コークティブ・コーチ資格(CPCC)取得
・ORSC システムコーチング 応用コース修了
・青山学院大学国際政治経済学部国際経済学科卒業
・グロービス経営大学院 経営学修士(成績優秀者表彰)