プロセスワークを活用した組織開発とコーチング ~バランスト・グロース・コンサルティング

組織の深層心理:ビジネスに役立つプロセスワーク、6つの視点第5回:セブンイレブンジャパン社長交代とプロセスワーク流リーダー2016年5月10日

佐野浩子[一般社団法人 日本プロセスワークセンター 代表理事/CEO

組織の深層心理:ビジネスに役立つプロセスワーク、6つの視点第5回:セブンイレブンジャパン社長交代とプロセスワーク流リーダー

● 「リーダー」というロール。そしてその「去り際」について語ります

一昨年度の大塚家具の社長交代劇に続き、昨年は同じ時期にセブンアンドアイホールディングスの会長退任事件がありました。企業においてトップが変わるということは、非常な困難が付きまといますね。今回は「リーダー」というロール、特にその去り際についてプロセスワークの立場から、この事例を使ってお話ししていきたいと思います(私はセブンアンドアイホールディングスの事件について、実際に何があったのかは全くわかりません。この記事は、youtubeに上がっている記者会見や日経などの記事を基に書いています。また鈴木元会長や井阪社長の資質を問うものではないことを、あらかじめご了承ください)

● ランクが高くなると、たくさんの「投影」を受ける

なぜあえて「資質を問うものではない」と書いたかというと、それだけリーダーというロール、特に企業のトップリーダーであるということは非常な重圧を伴い、また理解され難い困難があると思うからです。社員が何人であろうと、トップとして従業員とその家族の生活などを考え出すと、重圧を感じずにはいられないでしょう。トップマネジメントの職についたとたん不眠症になる人が多いというのもうなずける話です。私自身も小さな社団法人の代表理事ですが、就任した当初は不眠が続きました。また前回ランクについて書きましたが、特に社会的なランクが高くなると、多くの場合たくさんの「投影」を受けることになります(投影とは、その人に何かを映し出してみることです)。例えば社員の首を切りたくない、この地域の会社を潰したくない、という社員とその家族、また会社がある地域への深い思いと貢献が心の奥底にあったとしても、それは見えにくく、「あいつらはたくさんお金をもらっているから」とか、「搾取している」「下々の気持ちがわかっていない」などと陰口を叩かれることすらあります。社会的なランクが高いと、ランクが低い人からは様々な投影を受けやすく、孤独になりやすいのです。

● 鈴木氏は才能が極めて高いうえ、「他の方が取るべきロール」も取ってしまった

鈴木会長という方の記事をいくつか読ませていただきましたが、この方は「未来から発想」して現在を作り、マーケットの空白を突き、潜在的な顧客のニーズを引き出すような商品開発、そしてその商品の質を高めることに才能が極めて高い方なのだろうと想像しました。だからこそセブンアンドアイホールディングスはあそこまで大きくなったのでしょう。このような「ある種の才能」の上に「社会的な役職」にまで恵まれてしまった方にとっては、自分の後継者を探すことは非常に困難だったでしょう。どんな方がきても、この方の才能や長年の経験で培ってきたセンスやビジネスの感覚と同じレベルになるのは難しいと思うからです。 鈴木元会長は「会長である」という社会的な役職だけではなく、「セブンイレブンの商品開発の中枢を担い、決定権を持つ」というリーダーロールをとっていたようにも思います。「CEOだけではなくCOOの役割もとっている」と社内で批判を受けていたと鈴木会長が記者会見で話していましたが、他の方が取るべきロールをこの方はとってしまっていたようです。

● 鈴木氏の部下であるフォロワーがトップのロールを奪う「下剋上」は、極めて大きなエッジ

「ロール」という概念は第三回目にお話しいたしました。社会的な役割だけではなく、「なんとなく、この役割を担っている」…たとえばなんとなく社内で”癒し役”であるとか、”飲み会の幹事”であるとか、”頼れる人”であったり、”おっちょこちょいだけどほっとする”役であったり…というロールもあります(プロセスワークでは「ドリーミングレベルのロール」という言い方をします)。鈴木会長の場合、「会長」という社会的なロールにとどまらず、会長という役職に求められる職務を超えてセブンイレブンジャパンの”神様”と言われるようになったと言えます。 ロール理論では、誰かがそのロールをしっかり占有しているとき、他の人は別のロールを取らざるを得なくなるというものがあります。この場合、セブンイレブンジャパンの中枢を鈴木会長が支配し、”神様”のようなロールを占有していると、井阪社長はフォロアーロールにならざるを得ません。誰かがすでに占有しているロールを横から奪うことはとても難しいことです。井阪社長がもしこの鈴木元会長のロールを奪おうとするのであれば、大胆で緻密な戦略が必要だったでしょう。しかし現代の日本文化では、特に大企業ではこうした「下克上」をすることはエッジになりやすいといえます。

● 鈴木氏のエッジは「手放すこと」。それが出来なかった

プロセスワークの立場から見ると、鈴木元会長自身の”エッジ”は、リーダーとして、才能豊かな人間として、自分の持っているものがいかに素晴らしくとも、「手放す」ことだったのではないかと思います。「リーダーは死なねばならない」–プロセスワークの創始者、アーノルドミンデルの言葉です。リーダーは時として、自分のアイデンティティ…自分がどっぷりと同一化している社会的な役割や、組織の中で認められているロールを一旦殺さなければならないと言っています。つまり自分の心の中にある、そうしたアイデンティティへの執着を手放せるか。どれだけ偉業を成し遂げても、素晴らしい才能があっても、リーダーがそれに執着する時、組織は硬直化していきます。鈴木元会長は、どこかで自分のロールを退き、井阪社長に”任せてみる”ということへのエッジがあったのではないかと言えます。

● プロセスワークは、「アウェアネス」をはぐくむお手伝いをします

プロセスワークでは「アウェアネス」ということを言いますー日本語に訳すと「気づき」。 通常、ランクが高い人は、格下の人に対して「相手が悪い」「相手が仕事ができないからだ」と思ってしまいがちです。そして相手を変えよう、相手が変わるべきだと思いがちです。ですが私たちもその関係性の一部に入っており、相手がそうなっていることの裏には、自分自身が加担しているともいえるのです。自分がそこに影響を与えていることに気づき、変化への一歩を踏み出す時、相手もまた変化していきます。 現代では様々なリーダーシップ論がありますが、プロセスワークでは、気づきやアウェアネスを持ち、自分が変わっていくことを提案します。リーダーの語源はラテン語の「liber」。自由と同じ語源です。プロセスワーク流リーダーシップは、アウェアネスを持ちながら、アイデンティティを手放し、アイデンティティから自由になるリーダーシップであるといえるでしょう。

 

※バックナンバー「組織の深層心理:ビジネスに役立つプロセスワーク、6つの視点」

・第1回:プロセスワークから考える組織の成長
・第2回:個人の成長と組織の変容
・第3回:深層を流れる物語?「ロール理論」からみる組織の成長
・第4回:管理職としての自分を知る?パワーの取り扱い説明書
・第5回:深層を流れる物語?セブンイレブンジャパン社長交代とプロセスワーク流リーダー
・第6回:三菱自動車におけるデータ偽装?プロセスワークから見た隠蔽

※プロセスワークと組織開発の関連コラム

組織開発の基本 第2章プロセスワーク理論 第1節

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