グローバルビジネスにおけるカルチャーギャップという落とし穴 (第2回)チームの機能不全:海外メンバーが協力してくれない

2017年02月16日 祖父江 玲奈[バランスト・グロース コンサルタント

みなさんの周りではグローバルビジネスはどれだけ身近になっているでしょうか。 このコラムでは、異文化によってビジネスにどんな影響があるのか、そして、異文化に適応する力をつけることでどのようにビジネスを改善しうるのか、みていきたいと思います。

●上司の役割は国によって違う

文化の差がビジネスにもたらす大きな影響の一つに、上司の役割があります。経営学者のピーター・ドラッカーは「マネジャーの仕事自体は世界どこでも共通である。どのように遂行するかが伝統や文化により大きく異なる」と表現しているように、そのアプローチは各国の文化によって異なるのです。 マネジャーの役割は文化によって大きく2つに分かれます。「親型」と「コーチ型」です。 親型の代表としてはブラジルがあります。親のように面倒を見るマネジャーは、仕事では部下に指示を出したら報告を要求します。そして困っていることがないか、こまめに確認して進捗をサポートします。そして「親」としての役割は仕事の面倒を見るだけではありません。ブラジルの代表的な楽しみは家族や友人での週末のバーベキューですが、ブラジルでは事務所にも必ずバーベキューをする施設が作られており、マネジャーは「親」のようにパーティーを主催して、メンバーの働きに感謝し、メンバー同士が親交を深めて仕事へ高い意欲を持てるようチーム作りに努力するのです。 マネジャーの仕事として、目標を立て、業務計画を立ててメンバーを育成・指導していくという役割は世界共通です。ですが、文化によって期待されるマネジャーのアクションは大きく異なるのです。

●ケース「チームの機能不全」

今回は「メンバーのやる気がない」「言われたことしかやらない」という問題に着目します。 これはマネジメント側から見た表現ですが「マネジャーがワンマンで困る」「本社は指示を投げるだけで意見を聞かず、まったく進まない」とメンバーが愚痴をこぼしている、などの形でも表れます。異なる現象のように見えますが、発生している事実としては、日本人マネジャーと海外メンバーの間に溝があり、チームとして一体感がない、思うように進んでいない、という状態です。 有能なマネジャーが海外メンバーからは不評だったり成果が出なかったりというケースも多く見られます。マネジメント能力が高いにも関わらず、文化の違いがリーダーのあり方に対する期待値の違いを生み、チームの亀裂を大きくしてしまいます。マネジャーもスタッフも不幸な状態といえます。 ここで具体的なケースをみてみましょう。


日本のメーカーで、翌年度以降の技術開発計画を立てることになりました。技術企画部の加藤マネジャーは、グローバル市場のニーズを踏まえて本社で次年度の予算を確保するため、各拠点からの提案を取りまとめることにしました。イギリスの開発拠点に依頼し、ヨーロッパ市場のニーズに向けた技術開発案を提案してほしいと指示しました。 ヨーロッパ市場のニーズを具体的に本社に提案できる貴重なチャンスということで、イギリスの担当者は大変意欲的です。 ところが、2ヶ月経ってもなかなか検討状況が見えてきません。聞いてみるとまだ調査中とのことで、進捗もあまりわかりません。まだ期限にも余裕があるので、加藤マネジャーは現地の検討を待つことにしました。 半年後、イギリスの担当者から期限通りに提案書が送られてきました。ヨーロッパ独自のニーズで、明日すぐにでも採用したいという技術提案を数多く提案しています。しかし内容を見てみると、地域ニーズではあるけれど、これまで見たことがあるような提案ばかり。競合が採用している技術など、あまり考えずとも出せるような提案です。本社の技術企画部が世界初や業界初などの先進性を目指す技術開発計画を考えて提案を指示したのに、なぜこんなレベルの提案が出てしまったのだろう、真面目に検討せずに数だけ出せばいいと思ったのか、と加藤マネジャーは頭を抱えました。


島国という環境や、礼儀を重んじる文化からイギリスを文化的に近いと感じることもあるようですが、ホフステードの6次元モデルからみると、イギリスの文化はかなり異なります。6次元モデルで比較してみましょう。 (各次元は1~100で定量化されています) 6D_JPvsUK.jpg 日本のスコアからみると、イギリスは権力格差が低く、個人主義が強い点が特徴的な文化です。 「権力格差」の次元は、ビジネスでは上司のあり方を示しています。権力格差が低いイギリスではヒエラルキーは便宜的なもので、上司はコーチ的な存在となります。現場への権限委譲が進んでおり、部下が自主的に進めることができるよう、部下を力づけることが上司の役割とされます。日本では部下の主体性も重視されますが、上司に常に相談して上司の決裁を仰ぐスタンスをとりますが、イギリスは現場がより強い主体性をもっており、上司からの相談を受けてイニシアチブをとっていくスタンスです。 またイギリスは非常に「個人主義」の高い文化です。個人主義とは一人一人の意見を重視する、つまり言葉による明白なコミュニケーションを重視する国です。 このケースでの課題は、指示を補完する情報提供が少ないことにあります。 ケースでは、ヨーロッパ市場のニーズを提案するという課題ですが、技術で先んじたい、ブランドや商品力に直結する先進性のある技術を開発するための提案であることは明確には伝えられていません。また技術企画部がどの程度の規模の戦略を立てるのか、予算化の規模など情報が隠れた形でしか出ていないため、相手は限定的に提示された業務課題に対する回答のみを用意することになるのです。 オーダーが厳密であればあるほど具体的な成果は得られますが、指示した通りのものしか出てこない=指示待ち、付加価値が出ない、という結果になります。つまり、指示したことで組織の目的に貢献する価値を期待するからには、直接的な指示以上の情報を提供する必要があるのです。どんな成果を最終的に目指しているのか、そのために今回何を得たいと思っているのか。そういった背景情報を期待値として共有することで、イギリスのメンバーはその期待に応えようと動機付けされ、付加価値を出すことが可能になるのです。

●コツ「大きな背景を共有する」

重要なポイントは、自分たちが目指している取り組みの背景をできるだけ共有することです。 外国人メンバーとチームを組んでいる時、組織体制や役割分担、意思決定プロセス、または予算などの背景情報を説明されているか確認すると、よくわかっていないことが多くあります。日本人はそれを「知っていて当然」または「自分で調べて理解してから参加するべきだ」と考えがちです。ですが、共通した背景を持っていないメンバーが多い環境では、それはリーダーが整理して説明すべき事項になります。指示内容に関係する重要な情報は、確実に伝える責任はリーダーにあります。 英語では”walk in someone’s shoes”(その人の立場を体験する)という言い方がありますが、自分が見えているビジネスの課題を、自分が理解している背景や環境を含め、他の人も同じものが見えるように説明することは、リーダーの役割です。彼らに”自分の靴を履いて歩いて”もらえるよう説明することが、グローバルビジネスリーダーには求められるでしょう。 グローバルビジネスにおける異文化の落とし穴、第2回はいかがでしたか。 次回は海外に赴任したマネジャーが期待されるパフォーマンスが発揮できないのはなぜか、考えていきたいと思います。