グローバルビジネスにおけるカルチャーギャップという落とし穴 (第3回)マネジャー解任:期待されるパフォーマンスが発揮できない

祖父江 玲奈[バランスト・グロース  シニア・コンサルタント]

みなさんの周りではグローバルビジネスはどれだけ身近になっているでしょうか。
このコラムでは、異文化によってビジネスにどんな影響があるのか、そして、異文化に適応する力をつけることでどのようにビジネスを改善しうるのか、みていきたいと思います。

●赴任という立場:二国間の板挟み

グローバルビジネスにおける異文化の問題が凝縮される点、それは赴任者です。赴任という立場は本社など派遣元の期待を背負い、赴任先で制約や課題を理解しつつ本社の期待通り成果を出すマネジメントが求められます。
赴任して現地メンバーと成果を出すことも十分にチャレンジですが、リエゾン(窓口)というのは非常に難しい立場です。本社からの期待を赴任先が理解できるよう伝え、協力を得て推進すること、そして増え続ける本社の期待を落胆させずに、赴任地での課題や条件を本社に伝えて協力を仰ぐのです。異なる背景・文化からの要望やリクエストを代表して、もう一方の国へわかるように伝える。赴任という立場そのものが、異文化の壁の板挟みという状況を伴うものであり、双方の文化をわかる立場として課題を解決することを求められるチャレンジングな仕事と言えます。

●ケース「マネジャー解任」

今回は板挟みがもっとも顕著なケース、「期待の人材だったのに赴任先でパフォーマンスを発揮できない」という問題に着目します。
華々しく赴任したマネジャーがひっそりと帰国しているという事例は、実は珍しいことではありません。その陰には現地からの相談や苦情、成果が出ずに終了するプロジェクトなど、苦痛を伴うビジネスの課題があります。ただこれらの問題は、個人の問題、または人間関係の問題と捉えられて水面下で処理されることも多く、ビジネス課題として取り組んでいない場合も多いのです。個人の能力や資質としては優秀にも関わらず、成果が出ない。それは個人の問題ではなく、ビジネス課題として取り組むべき異文化の存在です。

ここで具体的なケースをみてみましょう。

アメリカを本社とするグローバルなIT企業で、お客様サービスセンターを見直すことになりました。複雑な問い合わせへの対応、24時間サービス化と多言語対応、顧客増加に伴い膨らむ一方だったコストの抑制も目的の一つです。北米・南米地域で先行展開した結果、品質とコスト効率の改善に大きな成果をあげたため、グローバルで展開することになりました。
日本市場は規模が大きいことに加え日本語という言語の壁もあるため、アジアとは区別して日本支社からプロジェクトマネジャーをアサインすることになりました。

お客様サービスセンターに精通しており英語が堪能な石川マネジャーが、グローバルプロジェクトに貢献できるメンバーとして任命され、アメリカ本社でのキックオフ・集中検討に参加しました。アメリカ本社の提案として追加すべき機能・サービスのほか、海外コールセンターの活用手法が説明され、各地域での進め方や懸念事項についてプロジェクトオーナーのエレンに直接提案するように指示がありました。

石川マネジャーは日本市場をよく知る立場として、品質とコスト効率を実現しようと意欲を持って検討を始めました。しかし調べてみるとフィリピンや中国へのアウトソーシングは対応時間の拡大は可能ですが、日本語対応が不安視されています。お客様サービスの評価は雑誌などで取り上げられ、海外アウトソーシングは日本市場では酷評されていることがわかりました。
石川マネジャーは、アメリカ本社から提示された海外アウトソーシングのリスクについて説明し、代替案として多言語対応を日本国内ベンダーで実現するため、自身が帰国後に詳細検討する計画をプロジェクトオーナーであるエレンに説明しました。石川マネジャーが考えうる実現方策として成功確率の高い提案でした。

結果として、石川マネジャーは帰国後すぐに任を解かれることになりました。メールにて「事情が変わった」との通知があったのみで、理由の説明もほとんどありませんでした。突然の解任もショックでしたが、「全く役にたたない人材を送り込んできて、日本支社はプロジェクトに協力する気がないのでは」という噂もあり、石川マネジャーはひどく落ち込みました。

アメリカの文化は第2回のイギリスに近い部分が多いですが、異なる点にも注意が必要です。

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日本のスコアからみると、アメリカは個人主義が非常に強く、また短期的な成果への意欲が高いことが特徴的な文化です。権力格差の低さや個人主義はイギリスに近いですが、短期的な成果への意欲はアメリカの特徴です。
「個人主義」の次元は、ビジネスではコミュニケーションのあり方を示します。個人主義のアメリカでは情報の発信者にコミュニケーションの責任があり、言葉で明白にコミュニケーションすることが重要になります。集団主義的な日本では、コミュニケーションは人間関係に基づいて行われるもので、所属する集団の利害が重要です。受信する側は人間関係や暗黙の了解といった非言語的な要素を含めて理解する必要があります。
「長期的志向」は実用的で将来を見据えた長期的な志向性、または規範的で短期的な志向性のどちらを持っているかということです。かなり長期志向の日本に対し、アメリカは非常に短期志向が強く、短期での成果を求めます。
また長期的志向に付随して今回重要なのは、「不確実性の回避」です。日本は不確実性を排除した確実な計画を持ちたいという意欲が高く、対するアメリカはリスクをとることも可能という意識の差があります。

このケースの課題は、プロジェクトで達成したい成果のズレにあります。
お客様センターの品質及びコスト改善という目標は共通ですが、アメリカと日本では優先したい事項が異なっています。アメリカはグローバル標準でのアウトソース事例を短期に創出したいと思っていますが、日本では品質、コスト改善の実現に向けて確実な(そして短期ではない)方策を提案しようとしています。日本側の提案は、実利としてお客様センターの改善に向けた策ではありますが、本社のプロジェクトリーダーの要望には応えられていません。

このズレは、優先したい事項のズレから来ています。何を優先したいのか、何を避けるべきか、具体的に合意することが必要です。アメリカ側からは検討の長期化は避けるべきであり、短期での成果が見える形の提案が重要であること、「グローバル共通オペレーションを実現したい」など要望を明確にすることが必要になります。日本側は達成したいサービスやコスト削減額など、具体的な内容をあげることで取り組みの優先順位に差がある点が明確になるでしょう。

●コツ「相手が達成したい目標を意識する」

重要なポイントは、自分たちが目指す目標について、合意することです。
アメリカのメンバーはグローバル展開はある外国人メンバーとチームを組んでいる時、組織体制や役割分担、意思決定プロセス、または予算などの背景情報を説明されているか確認すると、よくわかっていないことが多くあります。日本人はそれを「知っていて当然」または「自分で調べて理解してから参加するべきだ」と考えがちです。ですが、共通した背景を持っていないメンバーが多い環境では、それはリーダーが整理して説明すべき事項になります。指示内容に関係する重要な情報は、確実に伝える責任はリーダーにあります。
日本には「相手を立てる」という言い方がありますが、自分が達成したい課題だけがビジネスの目的ではない。どんなことを達成できたら嬉しいのだろうかと相手のことを考え、相手を立てるように取り組むことで、一つではないビジネスの課題を認識し取り組むことができるようになります。相手を立てることは自分の意見だけに固執せず、お互いの意見を認め合える関係づくりの第一歩です。グローバルビジネスリーダーは、多様なメンバーの期待値を尊重しつつ合意に導く必要があるといえるでしょう。

グローバルビジネスにおける異文化の落とし穴、第3回はいかがでしたか。
ただの人間関係のトラブルのように扱われがちですが、期待の人材がパフォーマンスを発揮できないのは、会社にとってはもちろん、本人も赴任先も不幸です。異文化を数値化して理解するホフステードモデルを使うことで、本人も赴任先も数値の差異が大きい場所を客観的に合意でき、ズレを修正することが可能になります。また、ズレを意識することで、より早くより確実にパフォーマンスを発揮できるようになります。
ぜひグローバルビジネスで成果を加速するために、ホフステードモデルを使っていただければと思います。