プロセスワークを活用した組織開発とコーチング ~バランスト・グロース・コンサルティング

第3回:レジリエントなシステム、レジリエントなわたしたち2013年7月29日

2013年07月29日 新井宏征[バランスト・グロース パートナー]

今回はこのコラムのテーマとして紹介している「レジリエンス」が世界でどのようにとらえられているのかを知るひとつの例をご紹介します。

●Global Risks Report 2013の中のレジリエンス

The World Economic Forumが毎年出しているGlobal Risks Reportの最新版であるGlobal Risks 2013 – Eighth Editionの中では、この2013年版の特集として「グローバルリスクに対する国家のレジリエンス構築(Special Report: Building National Resilience to Global Risks)」というレポートが掲載されています。

そもそも、このGlobal Risks 2013の中では、今後10年の間に発生する可能性が高いグローバルリスクとして「極端な所得格差」が挙げられています。また、実際に発生した場合、もっとも大きな影響を及ぼす可能性があるリスクとしては「大規模でシステミックな金融破綻」が指摘されています。その他、「長期間にわたる財政不均衡」と「水の供給危機」が、発生する可能性と発生した場合の影響度の両方の観点で、上位5位に入るものとして取り上げられています。

そのような中、この2013年版では、先ほど書いたように「レジリエンス」について詳しく調査を行っています。これは「レジリエンス」の考え方を応用して、国家としてグローバルリスクに対する準備ができているかどうかを診断するための診断フレームワークを構築する試みをまとめたものです。

●リスクの種類

このフレームワークの診断結果を紹介する前に、レポートではリスクの種類について整理しています。

その中には、著者が代表を務める株式会社スタイリッシュ・アイデアのレポート「シナリオでリスクに向き合う(シナリオ・プランニング003)」の中でまとめた、バランス・スコアカードの共同開発者として知られているロバート・S・キャプランが分類した3種類のリスクについても取り上げています。

その3種類とは、次の3つです。 ・内部リスク:社内で発生する戦略的メリットを生まないリスク ・戦略的リスク:より大き戦略上の利益のためにとるリスク ・外部リスク:コントロールの及ばない外部のリスク Global Risks 2013の中では、このうち最後の「外部リスク」がレジリエンスと相性の良いものとされています。

また、もうひとつのリスクの分類方法として、「リスクの発生や影響度の予測可能性」と「対処法に関する知識量」の2つを軸に取ったマトリクスで分析する方法も紹介されています(詳しい内容は、レポートの図を見ていただいた方が理解しやすいと思います)。その上で、「リスクの発生や影響度の予測可能性が低く」「対処法に関する知識量が少ない」ようなリスクについては、レジリエンスとの相性が良いとしています。

●レジリエンスのモデル

このレポートでは、国家のリスクとレジリエンスの関係を考える前提として、国家は、小さなシステムとより大きなシステムから成る「システム」だとしています。そして、国としてのレジリエンスは、構成されているそれぞれのシステムのレジリエンスの影響を受けるので、このようなシステムを評価する際のベースとしてシステム思考を紹介しています。

では、その小さなシステムとは具体的に何のことを指しているのでしょうか?今回のレポートでは、「サブシステム」として、次の5つを紹介してます。 1. 経済 2. 環境 3. ガバナンス(政府や政策など) 4. インフラ(通信、エネルギー、交通、水、医療) 5. 社会(人的資本、コミュニティ等)

このそれぞれについて、レジリエンスの特徴として「強靱さ(Robustness)」、「冗長性(Redundancy)」、「資源の豊富さ(Resourcefullness)」の3つ、さらにレジリエンスのパフォーマンスとして「反応(Response)」と「回復(Recovery)」を挙げています。つまり、国のレジリエンスを測るためには、サブシステム5つとレジリエンスの特徴とパフォーマンス5つをかけ合わせた25の要素で判断されるというモデルを紹介しています。

●実際のレジリエンス評価は?

実際の評価はどうだったかというと、まず1000人以上の回答者から得たアンケート結果を元にした調査(Global Risks Perception Survey)のうち、特に経済と環境のサブシステムについての結果が照会されています。これによると、経済も環境も、もっとも高い評価だったのがスイスでした。日本については、環境リスクはスイスと匹敵する高さだったものの、経済リスクについては、スイスはもちろん、中国やドイツ、米国、ブラジルなどよりも低い結果となりました。

また14000以上の回答を得たExecutive Opinion Surveyでは、自らの国のリスクマネジメント効率について確認をしています。この結果では、日本は主要国の中ではロシアに次ぐ低い結果となっています。

詳しい分析方法や結果については、ぜひレポートを見てください。レジリエンスについて考える良いきっかけになるレポートです。