ランクとは、人間関係に大きな影響を与える要素の1つです。1995年のアーノルド・ミンデルによる定義は以下です。
「ランクとは、個人の持つ特権の集合体である。社会的もしくは個人の能力やパワーであり、文化、コミュニティー、個人の心理、スピリチュアルなパワーによって形成される。当事者が意識している場合と、意識していない場合がある。」
ランクには、外的に付与されるもの、内的に付与されるものがあります。
【社会的ランク】
どのような社会においても、その社会において、より望ましいとみなされる特徴が存在します。例えば西洋社会においては、男性・白人・高学歴・プロフェッショナルな職業・容姿・運動能力などが相当するでしょう。「その社会が男性という特徴に高いランクを付与している」ことがポイントです。決して「男性であることに本質的価値が高い」という意味ではありません。社会が違えば「容姿端麗」の基準が異なることもこの概念の理解の助けになるでしょう。
【文脈ランク】
ある特殊な状況や環境においてその瞬間に生じるランク。例えば見知らぬ外国にいる状況では、言語もわからず、公共交通機関の利用方法も不明であり、ストレスにあふれ、低いランクが付与された状態になります。裏を返すと、その場にある暗黙ルールや文脈を理解していることからくるパワーを指します。
「心理的ランク」
自分を理解し、自分に対する肯定感・満足感から来るパワー。心理的ランクは内側で獲得されるものなので、このランクが高い人は誰とどこで関わっても影響を受けずに安定しています。常に変化する自分の感情を経験し、理解し、適切に扱える能力は心理的ランクを増大させます。両親に愛される幼少期を過ごした場合に高まる傾向があると共に、難易度の高い状況での自己研鑽を積むことで、自分自身の思いをストレスを感じずに表現できるようになることも関わります。高いランクの自覚が足りないと議論の場面において時に他者を圧倒したりすることもあります。
「スピリチュアル・ランク」
我々自身よりも大きな「何か」とのつながりから来るランク。宗教的な確信を得たり、深い使命や目的を感じられていることによる安心感や充実感に関わります。既存の枠組みから外れることを怖れない心理状態です。苦難を乗り越えてきた人が持つ慈悲の心や大いなるものに委ねるパワーもこのランクです。
当事者自身は、ランクの高さが空気のようにあたり前のため自覚しにくい傾向があります。例えば、男性に高いランクを付与する社会に生まれた男性は「それ(男性であること)が普通のことだ」と感じ、女性が低いランクを付与されていることに無自覚な場合が多いでしょう。当然のことながら、自覚していてもいなくてもランクが高い状態は心地が良く感じられます。
当事者自身は、自分のランクが低いことは自覚しやすい傾向があります。例えば、白人主体のグローバル企業で働くアジア人は、容易にアジア人のランクの低さを自覚するでしょう。反対側から言うと、他者のランクの高さがよく見えます。
個人同士、組織同士の関係性の悪化(葛藤)は、ランクがその原因になっている場合が多くあります。1つの例をあげましょう。
プロセスワークを活用した組織開発の第一人者であるスクートボーダー博士は、来日時に心臓外科医たちと麻酔科医たちの対立の事例を提示した。前者から見ると、「我々は心臓手術を成功させるという同じ目的をもるパートナーだ」であり、決して後者を下に見ているわけではない(悪気はない)。ただし、振る舞いのあちらこちらで、自分たちのランクの高さに無自覚であった。
麻酔科医たちは、「自分たちは下に見られている」と感じてわだかまりを高めて行った。そして、先進的な術式を導入しようとする心臓外科医たちに対して「それは危険だ。やるべきでない。」といった抵抗勢力と化した。危険性の提示は表面的な理由であり、本心は「俺たちをバカにするやつらに一矢報いる」であった可能性が高い。対立はさらに深まり、麻酔科医たちのストライキにまでつながってしまった。
ここでの葛藤解決のためにはランクに対する自覚(アウェアネス)を育み、ランクを適切に行使することが求められます。
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