2013年12月18日 祖父江 玲奈[バランスト・グロース パートナー]
ダイバーシティ、働く女性が注目されています。 World Economic Forumから毎年発表されるGender Gap Reportにおいて2013年日本はさらにランキングを下げ(136 カ国中105 位)先進国では最低ランクであることが報道され、関心を呼びました。
実は、男女の差を公式に「違い」として認められるようになったのは、世界で見てもごく最近のことです。 歴史的な背景もあり、男女は基本的に一人の人間として平等であるという考え方があります。上記のGender Gap も同様の考えです。同権という考え方はよいのですが、男女は同じではありません。生物学的に(生殖器の違いだけでなく)異なり、心理学的にも価値観の違いなどがあるのですが、先天性(生物学)と後天性(社会学)、さらに個人のばらつきが存在するため、差別にならずに違いを認めることは難しかったのです。
15年ほど前になりますが、『話を聞かない男、地図が読めない女』という本がベストセラーになりました。この本が画期的であった理由は、生物学や心理学の面から男女の差を解説していることです。脳科学的には脳梁の大きさが違い、さらに機能的にも差がある、という科学的なアプローチによる男女の差を世間に広く知らしめたことは、男女の違いが認識される大きな一歩でした。 その後アメリカでは性差を科学的に研究することが進められており、2010年にはFemale Brainという本が出版され、ベストセラーになっています。
日本におけるダイバーシティは冒頭に述べたように男女平等がまだ大きな課題であり、20代後半〜30代の休業・離職によるM字カーブの解消が主眼の論議です。それも確かに重要なのですが、ダイバーシティの目的は多様性を活かすということにあります。世界のダイバーシティは男女の違いに着目し活かすことに焦点が当てられる傾向にあり、働く人たちの多様性をいかに活用するか、ということに向いてきています。 次に「違い」が大切なイノベーションについて考えたいと思います。
イノベーションというと「見たこともないようなアイディアがひらめく」というイメージを持つことが多いようですが、実際には地道に考え続ける日々の積み重ねから、変化の種を見つけるものです。イノベーションとは、日本では狭義に技術革新を指すことが多いですが、広義には革新、新機軸を指します。 イノベーションの定義とは…
それまでとは異なる新しい価値を見つける。つまり、違いを見つけることからイノベーションは始まります。自分の常識を見つけることは難しいですが、違いを考えることによって新しい視点で見ることができます。従来の使い方や商品にとらわれず、使うときの違和感や、自分とは違う使い方を観察することから、新しい機能やデザインを考えることにつながるのです。
今では様々な形となったヘッドフォン。ソニーのウォークマンも革新的でしたが、ソニーのヘッドフォンも革新的でした。97年発売のネックバンド型ヘッドフォンです。 http://www.sony.co.jp/Fun/design/history/product/1990/mdr-g61.html
それまでのヘッドフォンはインイヤー型は軽くて便利、でも音はイマイチ、音漏れもしやすい。ヘッドバンド型は音がいいけれど大きくてかさばるし髪型が乱れるということで、どちらを選ぶかは難しい選択でした。つまり、どちらを選んでも妥協がありました。 髪型を気にせず、いい音で聞きたい人はいないのか?この違和感に素直に応える形で、MDR–61が登場しました。若手のデザイナーが「自分が欲しい」という理由で企画提案したと言われています。それまで見たこともない形。熱意に押されて発売したところ、大ヒット商品となり、今ではネックバンド型は1つの形として確立されました。
小さな違い、違和感に気づくこと。その違いを認め、何の価値を提供するのか、既存の商品やサービスで提供できていない価値はないか。「気づき」は、それまで当たり前であったモノやサービスに、新しい価値を、イノベーションをもたらす可能性の種なのです。
では、違いに気づいた革新的なアイディアは、素直に実現できるのでしょうか? 実はそこに大きなジレンマがあります。こういったアイディアを論理的にマーケティング予測したら・・・『イノベーションのジレンマ』(クレイトン・クリステンセン著)にも書かれていますが、存在しない市場は分析できないのです。既存の商品や市場はデータもあり分析ができるので、持続的イノベーションが実現されます。しかし、破壊的イノベーションが起こる新しい商品やサービスは不確実性も高く、価値が判断しづらいものです。論理的に判断しようとすればするほど、イノベーションは起こりづらくなります。
提案が革新的であればあるほど、論理的には理解されないのです。企業の上層部から理解が得られなかった、承認されなかった、という声は様々な企業の現場で聞かれますが、これはある意味、当然と言えます。この論理の壁を乗り越えなければ、イノベーションは実現できません。 論理の壁を越える、ここにダイバーシティによる飛躍のチャンスがあります。
女性は直感力に長けている、と言われています。 男性は論理的で集中しており、女性の話は感情的で分散していて話を聞くのも大変だ、などと言いますが、これは脳の違いから来ていると考えられています。 左脳は記憶や論理性を司り、右脳は感情や感性を司っています。左脳と右脳をつなぐ脳梁という器官が、女性の脳のほうが男性の脳より大きいことがわかっています。また信号回路も男女で異なり、男性は前後、女性は左脳と右脳の間で多く存在することが最近の研究で判明しました。 http://medicalxpress.com/news/2013-12-reveals-differences-brain-men-women.html
直感は、第六感とも言われますが「説明や証明などを経ないで、物事の真相を心で直ちに感じ知ること」(広辞苑)と定義されています。 男性は論理性が優れている一方、感覚で捉えたものを同時に論理でも考えがちですが、女性は直感的であり、自分が直接的に捉えた感覚に忠実であるといえるでしょう。女性は直感力で得たものを論理的に説明することは不得手ですが、よいものを「よい」と感覚で捉えることを得意とします。
この直感力は『イノベーションのジレンマ』を乗り越える一つの力になりえます。イノベーションは、論理力だけでは起こすのが難しい。論理力も直感力も必要なのです。ダイバーシティを活かす、女性の持つ「直感力」を活かすことで、イノベーションにより近づくことが可能になるといえるでしょう。