改めてシナリオプランニングの目的を考えてみると、シナリオプランニングの作業を通して自分たちの未来を言葉を使って表現することで、「漠然と感じていた不安」を「健全な危機感」に変えることと言うことができます。
よくあるような自己啓発書を見ると「考える前に行動しよう」とか「考えながら行動しよう」というような形で、「思考」と「行動」が対比されて、その重要性が比較されています。しかし、ただ「思考」するだけでは十分ではありません。なぜかというと、私たちが何気なく考える時というのは、必ずメンタルモデルが働いているからです。つまり、世の中をある一定の見方で見てしまっています。
それは常に悪いことではありませんが、特に現代のような外部環境の変化が速く、またその変化から受ける影響が大きくなっている時代においては、メンタルモデルを一度は取り払い、なるべく客観的に世の中を見ることが必要です。そこで下記の図に示したとおり、「思考」や「行動」の前に、新たに「認識」というプロセスを意識することで、偏った見方をなるべく取り除こうとする仕組みづくりが必要になります。
このような仕組みをプロセスとして組み込んでいるのがシナリオプランニングです。
このように外部環境を「認識」して、自分たちにとって起こり得る未来を「思考」し、その結果に基づいて「行動」を考える。いかにも重要で、なくてはならない取り組みです。しかし、シナリオプランニングの現場で、自分たちを取り巻く10年後の世界を考えるというような話しをすると、 「そもそも、なんで未来を見なくてはいけないんですか?」 とおっしゃる方がいらっしゃいます。口には出していないまでも、心の中ではそう思っている方もいらっしゃるでしょう。
先日は 「わたしは今の自分の立場に満足しているので、とにかく今の状態をキープし続けたいのです」 と、非常にキッパリおっしゃっていた方がいました。 わたしのようなシナリオプランニングにかかわっている立場の人はもちろん、社内でこのようなプロジェクトを積極的に進めていこうとしている人にとっては「未来を見る」ということは、当然、やらなければいけないと思っていることです。 しかし、中にはそう思っていない人もたくさんいるはずです。もしかすると、そう思っていない人の方が多いかもしれません。
以前に書いたように、「見たい未来しか見ない」という人はたくさんいるはずです。 そのような環境でシナリオプランニングを推進する人は、ぜひこの「自分が見ている世界」のギャップのワナに陥らないようにしていただきたいと思っています。 シナリオプランニングのプロジェクトをやるというと、さっそく、外部環境を集めて…という話しになる場合がありますが、大切なのは、改めてチームメンバーに目を向けてみるというところから始まるのかもしれません。
弊社松田による「組織開発(OD:Organization Development)の基本」では、ODのプロセスで介入対象の概念図が紹介されています(詳しくはリンク先をご覧ください)。この解説として、介入対象の例として、個人、チーム、そして組織が挙げられています。
○個人への介入の代表例は研修やコーチング
○チームへの介入の代表例はチーム合宿(オフサイトミーティング、アウティング、ワークショップ)やチームコーチング
○組織への介入の代表例は全社組織サーベイだったり、様々な介入プロジェクトを組織全体としてどう展開していくかを設計すること
そして、これを受け「例えて言うなら、点への働きかけ、線への働きかけ、面への働きかけを複合的に用いるのがODだ」と書かれています。 シナリオプランニングを組織内のプロジェクトとして推進する人は、シナリオプランニングという手法自体に魅力を感じていたり、組織の未来を見るということに抵抗がない、むしろ積極的であるという方が多いはずです。しかし、必ずしもそれがあらゆる個人、あるいはあらゆるチームで共有されているかというと、そうではありません。 そのため、シナリオプランニングのプロジェクトをやる際には、ぜひ単にシナリオを作ることをゴールにせず、それを通して組織をどのようなものにしていきたいのかも忘れずに考えるべきなのです。