2014年04月22日 祖父江 玲奈[バランスト・グロース パートナー]
アイディアを出す、発想力。 そのカギを握るのが、使い方などの細かなニーズの違いを発見する「気づく力」です。統計データを分析したりインタビューを聞いたり、また街を歩いている人を観察したりする中で、気づく。気づく力が、イノベーションを起こす発想力の第一歩にあたります。 この「気づく力」に、女性が持つ特徴的かつ注目すべき要素があります。意識的に伸ばすことで、発想力を飛躍させる大きな可能性を秘めています。
“発想力は発見力”*とも表現されますが、問題解決の過程は問題に気づくことから始まります。問題があることに気づき、どんな問題か理解し、そしてどのように解決するのかを考えていくというプロセスの第1段階です。 問題解決の5段階(J・デューイの反省的思考段階)
1. 問題に気づく
2. 問題を明らかにする
3. 仮説(解き方)を提案する
4. 仮説の意味を推論する
5. 仮説を検証する
気づくとは、「気にとめていなかったところに注意が向いて、物事の存在や状態を知る。気がつく」(デジタル大辞泉)こと。日々過ごしている中で流れている情報から、どんな情報を受け取るか。情報を受け取るということは、ただ漫然と情報を眺めるのではなく、意図をもって能動的に受け取るということです。「気づく力」とは、情報を受け取るアンテナと言い換えることができます。
「気づく力」を養うための視点として、いろいろな手法が提案されていますが、重要な視点として、ズームインとズームアウトの2つの視点があります。 対象を細かく注意深く観察して共感するズームイン。人気のある商品デザインのディテールを観察・分析したり、インタビュー相手の感情に共感したりすることで、何もなかった世界に疑問が生まれる、近接的な視点です。 もう1つが全体を俯瞰して見るズームアウトの視点です。購入者の年齢や世代、収入や家族構成、また出身地など、意見の背景にある情報を加えて理解することで、1つ1つの意見に違う色合いが生まれる、広角的な視点です。 このズームインの視点において、実は、女性が得意な「気づく力」があります。
女性の持つ「気づく力」、それは表情を読み取る力です。相手の顔に表れた表情から、どんな感情を示しているのか読み取ることにおいて、女性は男性より優位な傾向にあると言われています。
ある実験では、性別や年齢が様々な人の顔写真を次々に画面に示し、表情からどんな感情を表しているか読み取るという方式で実験したところ、女性は実に早く90%以上の正解率であるのに対し、男性は時間もかかり70%前後という結果になりました。特に、感情の表れている度合いの少ない微妙な表情を読み取るのに、男性は苦戦するそうです。 この実験では読み取りテストを受けている男女の脳の活動も調べており、なんと男性は女性の2倍以上も脳を働かせていたことが判明。つまり、男性は脳みそをフル回転させても、それでもなお女性のほうが表情を読み取るのは早くて正確なのです。
(表情読み取りに対する女性の優位性については諸説ありますが) 特筆すべき点は、同じ対象を見ているときに、読み取っている情報が男性と女性では統計的に異なる可能性が高いということです。
男性と女性で同じ対象者を見ている時、女性の「気づく力」は対象者が感じている感情を読み取る確率が高い。対象者が発言した言葉だけでなく、どんな感情で話しているかに気づくことで、より文脈を重視した解釈ができるということです。
ではどんなときに、女性の「気づく力」は活かすことができるのでしょうか。 マーケティング調査では単独やグループでのインタビューを行いますが、インタビューでの反応を観察することで、いろいろな気づきを得ることができるため、非常に重要です。 例えばこの商品を買いたいと思うか、という質問に対して「はい」「いいえ」の回答だけではなく、どれくらいの意欲をもって「はい」と答えているのか、どんな様子で回答しているか。その応対を見ることで、女性は感情を読み取り、回答の文脈や背景情報といった複合的な情報を手に入れる確率が高いのです。 前職のマーケティング調査にて、お客様に車を乗り比べしていただく調査を行ったときのこと。
実際の現場での出来事です。
A車:「いい感じよ」
B車:「いい感じだわ」
この回答を言葉だけで受け取ると特に違いがないように見えますが、調査担当の女性陣には「いい感じ」以外のことが見えました。
A車:「いい感じよ」(まじめな顔で頷きながら、車を観察している)
B車:「いい感じだわ」(満足そうに微笑み、ハンドルをなでている)
表情を読み取ったことで、より突っ込んだ質問が出来るようになります。
司会「それは具体的にはどんな感じですか?」
A車:「私の好みではないけど、しっかりしたいい車に乗っている感じ」
B車:「スムーズで、気持ちがいいわね。大好き。これなら長時間運転できるわ」
お客様の回答に対して、感情から深みのあるコンテキストを読み取る女性的な「気づく力」。お客様のあるがままの意見に気づくことができるもうひとつの要素といえるでしょう。
「気づく力」には、今の商品で充足できていない機能やお客様の要望に応えるといった論理的分析が有効であり、多くの場面で実施されていると思います。これは左脳的「気づく力」、男性が得意とする論理性といえます。なぜ紙コップは丸いのか?このように本質的な部分への問いかけから思考が始まり、「なぜ?」「なぜ?」と思考をより奥深くまで追及していくことで得られる気づきを指します。 これに加えて、女性が得意とする「気づく力」は右脳的要素です。直感的とも言えますが、頭で考えて気付くというレベルではなく、見た瞬間に閃くような気づきを指します。
男性の得意とする論理的気づく力に加えて、女性の得意とする観察力は見落とされがちな感情的要素に気づくことができます。双方を組み合わせることにより、新しい「気づく力」を実現できるのではないでしょうか。
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【祖父江玲奈】 ☆ イノベーションに女性視点を活かすには? 〜女性の共感力がヒット商品を生み出す理由 〜 ☆ イノベーションに女性視点を活かすには?〜違いはイノベーションの種である 〜 【小島美佳】 ☆ 前編:ダイバーシティマネジメントを考える ― 「マイノリティ」な女性たちが辿った戦いの変遷 ― ☆ 後編:ダイバーシティマネジメントを考える ― 「マイノリティ」な女性たちが辿った戦いの変遷 ― ☆ 女性らしさを失わずに管理職になれるのか ー 社内ポリティックスを優雅に活用するために ― ☆ 前編:日系企業で外国人社員は生き残れるか? —————————– 参考 三谷宏治 発想力 女と男 ~最新科学が解き明かす「性」の謎