明けましておめでとうございます。謹んで新春の喜びを申し上げます。皆様におかれましては年末年始に良い充電ができたことと存じます。
そして、束の間の休暇が明けると、たちまち世界の激動に直面する日常が始まっているのではないかと思います。
テクノロジーの変化、世界規模での社会・経済環境・競争環境の変化は、その変化に直面している社会コミュニティや組織などの集団にも変革を迫ります。そして集団が変革に直面している時、集団の中に方向性を生み出し、潜在的な対立を表面化させ、それを建設的に統合して行く困難さは、実際に集団の変革を当事者として体験したことのある方ほど実感を持って感じられていることと思います。
私たちは、お客様が直面する変化の荒波こそが、次世代のリーダーを育み、組織文化を革新する絶好の環境となるよう、昨年も微力ながら取り組んできました。その中から印象的なイベントを「2021年の足跡」としてご紹介したいと思います。
昨年11月から12月にかけて弊社としては初の出版を行いました。いずれもリーダーシップ開発・組織開発に対する理解を広げ、深めてくれる良書と思っています。
「成長する組織とリーダーの作り方」は世界的な360度リーダーシップ・サーベイ開発・提供企業である米リーダーシップ・サークル社創始者ロバート・J・アンダーソンらによる著書で、リーダーがどうやって自らの変容を遂げ,そして組織を変容させながらリーダーシップを拡大していくのかについて広範な調査を元に書かれた本で、リーダーシップ開発と組織開発の繋がりについても非常に参考になる事例が含まれています。
「対立を歓迎するリーダーシップ」は、個人と集団の変容心理学であるプロセスワーク創始者のアーノルド・ミンデル氏が考案した、集団の葛藤を扱う「ワールドワーク」というファシリテーション手法の背景にある概念とリーダーやファシリテーターがどういう世界観で集団の葛藤を捉えたら良いかについて書かれた本です。
従来より、弊社で培ったコーチングや組織開発ノウハウを世の中のマネジャー、コンサルタントのスキル向上のための公開講座として運営してきましたが、より中立性の高いスクールとして独立させることが事業の性質上相応しいと判断し、「一般社団法人 組織開発コーチ協会」として分離・設立いたしました。ビジネスのみならず公共分野においても求められる、個人と集団の両方の変容をサポートできる「組織開発コーチ」を持続的に輩出していきたいと思います。
先ほどの「組織開発コーチ」とも通じますが、私たちの組織開発は企業の戦略文脈、組織変革文脈とのつながりをとても大切にしています。そういう意味では、通常の組織開発と区別して「戦略的組織開発」を常に意図しています。
「戦略的組織開発」を説明する上で、「学習する組織」で有名な米マサチューセッツ工学大学教授ピーター・センゲのフレームを借用してみます。センゲ氏は「外部環境―戦略―内部組織」の連携について3つの図形のつながりによって表現しています。次の図では、センゲ氏のフレームワークをベースに「組織症状の重症度」「役者(事業トップ、人事、現場のリーダー)の揃い具合」をもとに、組織開発プログラムに繋げていく大きな流れを説明しています。
中々ピッタリこの通りとはいきませんが、昨年私たちがお客様と取り組んだプロジェクトと共に具体例をご紹介してみたいと思います。
上の図で言うと「重傷」と「中軽傷」の中間の状況でした。事業は外部環境のおかげもあって好調の事業部ですが、長年のトップダウンのツケで指示待ち社員が多く、挑戦的な計画を立てても常に前年横ばいが続くなど組織状況は重傷の状況での中、事業トップがミドルを活用して、成長を阻害する要因と特定と解決策を立案してもらうものです。自社課題型研修にありがちな「新規事業」「ビジネスプラン」ものではなく、組織に「今」に具体的にメスをいれる実践的なものです。
このプログラムの設計には3つのポイントがあります。
1)経営チームの一枚岩化
ミドルを巻き込むプロジェクトをスタートする前に、経営幹部5名(製販研のトップ含む)でハーバードの組織変革ケースを使った勉強会を行い、組織変革のイメージを共有し、その後で事業部のミドルにサーベイを実施し(全社で実施している「エンゲージメントサーベイ」とは別に)、経営幹部から見えていない組織状況を受け止めるワークショップと事業部のビジョンを5人が構想するワークショップを実施し、組織変革が実現するための器作りを丁寧に実施した上で、年度はじめにトップがビジョンの発信とタスク・フォース型プログラムへの参加を公募で呼び掛けたのです。
2)問題の深掘り思考OSの徹底実践
次のポイントは、問題の深掘り思考OSの徹底実践です。この事業部では問題が起きると拙速に打ち手に飛びつき、問題が解決しないというパターンが繰り返されていましたが、私たちは氷山モデルでの問題の構造化と自分達の視野を拡大するためのステークホルダーへのリサーチを行なってもらいました。単に何故を5回繰り返すロジックツリー的思考ではなく、氷山の下への垂直方向を意識した課題解決です。
「事業部で戦略と言われるものが数字しかないので戦略を明確にすると同時に戦略が進化する仕組みを作る」「研究開発組織の活性化」「グローバルマネジメントの歪みの解消」など骨太なテーマをミドルが自主的に設定し、半年強をかけて非常に良い形で進んでいます。
3)新しいかたちの対話が生まれる設計
最後のポイントは経営陣とミドルの間で新しいかたちの対話が起きる設計です。経営陣の関与は最初は少なくし我々が壁打ち相手&仲介者の役割を担いますが、後半になるとミドルと経営陣とが直接建設的な議論を交わしていくように設計します。これによって上下の関わり方に変化が起き、組織文化が変わり始めます。
プログラムの成果:
①ミドルの経営者化の進展:本プログラムの参加した全世界のミドルの7割ぐらいは変革の主体者としての覚悟が醸成されると同時に、思考の質が深く、広く、高くなった。
②経営チームの変化・成長:トップとミドルの創発的な戦略実行のための育成の重要性に気づき、育成的な関わりができるようになったと同時に、経営者として自分自身のレベルアップを行うことへの意識が高まった
③経営チームとミドルの関係の質の変化:ミドルが恐れずに本音をぶつけるようになったと同時に、経営チームは痛いフィードバック、現場の本音を受け止め建設的にミドルと対話するようになった。
このケースでは約10名強の次期社長候補(執行役〜部長の中から選抜。50歳前後)に対して、組織変革プランを立てさせるパート(外資系コンサルティングファームの経営者がファシリテーション)と1人1人に対するエグゼクティブコーチングパート(弊社が担当)を組み合わせて実施した。センゲのフレームで言えば、其々の担当する事業領域がバラバラで症状も重症のものから中軽傷のものまであったが、受講者は日々の業務の中で視野が狭くなったり、自分自身のリーダーシップの組織への副作用にも無自覚なまま過ごしていた。エグゼクティブ・コーチングを担当した弊社では、まずリーダーシップ・サークル社の360度リーダーシップ診断を活用し、其々のリーダーシップが組織に肯定的な効果をもたらしているのか、またはネガティブな影響を与えているのかを測定する所からスタートした。
その上で、
・それぞれの個人にあるリーダーシップの特性(クリエイティブ面とリアクティブ面)とそれを生み出した背景(育った環境、社会人としての職歴、成長と挫折の中で自己にインストールした価値観・固定観念)を自己発見する。
・その特性がリーダーとして組織に与えてきた好影響・悪影響を振り返る。
・経営リーダーとして継続するもの/捨てるもの/追加するものを定義する。
・目指す経営リーダー像のゴール(リーダービジョン)を明確にする。
・自己の強み・価値観と自己一致させる。
※経営リーダーとしての「軸:一貫性」を立てる。
・リーダービジョンが実現した状態をコーチングセッションの中で疑似体験する。
成果:それぞれの目指す姿が明確になるとともに、その姿に向けて覚悟・腹が決まったことが、現経営陣を前にした最終発表会で確認された。
当事業部は当社の主力事業部だが、根本的な事業転換期に直面している一方で、エンゲージメント・サーベイは社内でも最低で若手の離職が相次いでいました。センゲのフレームワークで言うと、環境と戦略がずれ始めている一方で組織面は重症という状況です。
当初、当事業部の経営陣の問題意識は、今回の組織変革の本質は単なる(狭義の)チェンジ・マネジメントではなく、トランスフォーメーション(一人一人の内面及びお互いの関係性の本質的な変化)にあるとしていましたが、当の部長たちは、それを繋げて考えられておらず、また部長たち自身のマネジメントスタイルがエンゲージメント低下の一因になっていても、それに真摯に向き合ってはいませんでした。
そこで、本ブログラムではトランス・フォーメーションのキーマンで「部長」に対するエグゼクティ ブ・コーチングを軸に、要所要所でミドル層による組織分析セッションとその結果を部長層にフィードバックすること。一部の部においては部長と課長の合同セッションを行なって、組織変革のパートナーシップを結び直すことを行なって、事業部の変革とエンゲージメント改善を結びつけていきました。
成果:
殆どの部長はこの機会を前向きに捉え(当初は超後向き)、自分のリーダーシップ・スタイルの改善に取り組むと同時に、ミドルとの協働関係も改善していった。
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以上、2021年に我々が取り組んだことの中でも特に印象的だった3事例をご紹介させて頂きました。
2022年も日本のリーダーシップ開発、組織開発の実践的なノウハウの進化に一層貢献してまいりたいと思います。良い翻訳本の出版をいくつか計画していますし、上記事例に関して公開セミナーや勉強会を通じて、各企業で組織開発に奮闘している実践家の方々と生きた情報・ノウハウを交換するセミナーや勉強会を開催していく予定ですので、ご期待ください。
2022年1月 バランスト・グロース・コンサルティング 松田 栄一