バランスト・グロースでは十数年前よりプロセスワークの世界的第1人者であるスクートボーダー博士の薫陶を受けながら、個人と集団の変容心理学である「プロセスワーク」をビジネス領域に適用することに力を入れてきました。
最近では組織開発スクールやプロセスワーク・コーチング(豪州のコーチング機関と提携)といった、社内外の組織開発プロフェッショナルの育成コースも定期的に開講しています。
今回もビジネスにおけるプロセスワークの活用についてともに学んできた仲間達と、上記テーマについて2ヶ月ぶり2回目の座談会を行いました。そのサマリー後半をレポートします。(座談会の前半はこちら)(3月に行われた座談会の模様はこちら)
登場者をシンプルにするために、誌面上では進行役の松田(私)以外は4名の匿名キャラ(それぞれ複数名の参加者を統合)として設定しています。
日系人事Aさん(典型的日系大企業の人事子会社役員)
組織コンサルタントBさん
外資系人事Cさん(GE出身バリバリ外資系人事部長)
ベンチャー企業人事Dさん(急成長しているベンチャー企業の人事部長)
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日系人事 Aさん 日本の大企業も、大きな既存事業が衰退しつつある中、新しい事業モデルを次々生み出していくスタイルに変わっていくでしょうね。組織サイズもどんどん小さくなっていくと思うので、現場の起業家であるミニCEOとHRBPがタッグを組むどころか、さらに進んでミニCEOがCHROを兼ねていくようになるかもしれません。先ほど(前半)お話に出たベンチャー企業のニュータイプの経営者のようなありかたですね。
ちょうどDIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー 2019年 7月号のハイアール社の事例記事を思い出したのですが、ハイアール社では大企業病に陥らないために、10年に及ぶ思い切った構造改革を行い、組織を4000超のマイクロエンタープライズ(ME)に分割した結果、1つのMEの規模が10−15人となったそうです。
そうすることで、従業員の誰もが顧客に直に責任を負う起業家のように振る舞い、ユーザー、発明者、事業パートナーという自分以外の3つの役割間で、何か問題があればみんなが集まって率直かつ建設的に話し合うチームワークが発揮される生態系を作り上げたのだそうで。
ちなみにMEには次の3つの権限が与えられ、自己管理を期待されます。
1.戦略:どの事業機会を追求するか優先順位をつけ、社内外の協力体制を築く権限
2.人材:新卒採用を行い、各人にふさわしい役割を与え、メンバー間の仕事上の関係性を決める(まさにOD)権限
3.配分:賃金や賞与を決め・配分する権限
弊社は全ての業界をお客様に持つというタイプの会社で、徹底的にお客様の声に対応するスタンスでずっとやってきて大企業になっていったんですが、これからは現場のリーダーがハイアール社のように採用・育成・異動を柔軟に組んでいけるようにならなければ、お客様の早い変化にとても対応できないでしょうね。
現場のリーダー像・組織像に関するそういう方向性について社内でまだ議論も共有も全くできておらず歯がゆいところがあります。しかし今後間違いなくそういう動きになっていくのではないかと感じます。
コンサル Bさん バブル世代、ゆとり世代のように「(新型)コロナ世代」が登場するでしょうね。今の小学生、中学生とかがその世代に当たりますよね。きっと我々とは違う価値観で社会に入ってくるはず。そういう世代間同士の葛藤、オールドタイプとニュータイプの葛藤は、私のクライアントの、“とある衰退、消滅する業界の企業”内でも起きています。
今回のコロナ騒動で衰退スピードは早まるはずなのに、現状では売り上げ規模が大きいので「目先の売り上げを守れ!」「我々が以前からやっていたことを一生懸命やるべきだ!」とオールドタイプが思考停止、エッジアウト*をしたがるという症状が出ているところです。
*エッジアウト:プロセスワーク用語で、心理的障壁であるエッジを超えずに元に戻る行為を指す
外資系人事 Cさん 私の会社のグローバル本社では、今回の「自粛」期間を従業員の成長の機会としようと積極的に動いており、イノベーションや社会貢献に関するグローバル・プロジェクトを起こしています。そのプロジェクトを通じて新たな世界に出会い、新たなメンバーと出会い、新たな自分を見つけることができるようにと、全世界の社員が参加できる取り組みをスタートしたんです。ところが、日本人社員が言語の壁にエッジアウトして、全然乗ってこないんですよね。このままいくと、他の国の従業員がどんどん成長する中で取り残されてしまうのではないかと危惧しています。
松田 良いか悪いかはあとになってみなければ分からないかも知れませんね。
「ディープ・テック」という本から引用した図によると、日本は「職人の国」のポジションだそうです。
日本はかなり昔からこのポジションに位置すると考えられていて、「大国の端の島国にあって、世界中から色々なものが流れ着き、溜まり発酵する文化の国」とされています。仏教も、儒教も、道教も、禅も、外国で生まれたものが日本に流れ着いて独自に熟成・発酵し発展してきた。
こういう日本文化の良さを生かしたイノベーションが起きてくるのではないかと思っています。また、この図の4つの象限のどれが良いのか、誰が勝つとのか、ということではなく、4つの象限同士がお互いの違いを活かし、建設的に関わりあうことを通じて、新たな価値を生み出していくのがニューノーマルではないでしょうか。
そして日本という職人の国の中でも、ベテランのシニアと若手が分断されず、活かし合う関係になれば良いと思っています。
ベンチャー人事 Dさん 大企業とベンチャー企業の両方に身を置いた実感として、スタートアップの経営者および人事コミュニティと、大企業の人事や組織開発のコミュニティが大きく分断されている。それぞれの根っこは同じなので、両コミュニティがもっと混じっていってほしいと思います。大企業にいた経験から言うと、大きな組織は内側からだと中々変われないので、外からの刺激が重要。大企業とスタートアップが相互に刺激を与え合い、ともに栄えることができたら素晴らしいですね。
ロンディール社というスタートアップが、大企業の社員をスタートアップにインターンとして派遣するマッチングサービスを提供して急成長しています。異なる世界の交わりは、双方にメリットがありますよね。私はODというテーマで、スタートアップと大企業の分断を埋めるコミュニティを作ってみたいと思っています。それぞれのノーマルが混じってのニューノーマルが生まれるとうれしいですね。
コンサルタント Bさん 老人と若者、日本系と外資系、スタートアップと大企業のノーマルが混じって新しい価値を生むというコンセプト、いいですね!日本人は日本の神話が深層心理にあると言われています。河合隼雄さん(京大名誉教授 心理学者。故人)によれば、日本神話は不思議で、「中空」構造を持っているのが他の国と大きく異なる点なんだそうです。
中空構造についてはこんなふうに説明されています。
・中空の空性がエネルギーの充満したものとして存在する、いわば無であって有である状態にあるときは、
それは有効であるが、中空が文字どおりの無となるときは、その全体のシステムは極めて弱いものとなってしまう。
・日本の中空均衡型モデルでは、相対立するものや矛盾するものをあえて排除せず、共存しうる可能性をもつのである。
この特徴を自覚せずにもう1つの日本の特徴である「父性」原理=家父長性を無理やり持ち込むと、日本の良さがなくなると警鐘を鳴らされています。
座談会を終えて
前回も総括で触れたことですが、『組織の壁を超える「バウンダリー・スパニング」6つの実践』という本に書かれていることを引用します。
昨今のような変化の大きい状況において組織を活性化するには、5つの壁=境界を超えるリーダーシップが必要だそうです。
1.垂直方向の境界:階層、地位、年功、権限、権力を超えたリーダーシップ
2.水平方向の境界:部門、ユニット、同僚、専門性を超えたリーダーシップ
3.ステークホルダーとの境界:組織とその外部パートナーが交わる場所でのリーダーシップ
4.人口属性の境界:性別、人種、学歴、思考などの多様性をふまえたリーダーシップ
5.地理的な境界:距離、場所、文化、地域、市場を超えたリーダーシップ
今回の新コロナ問題で「5.地理的な境界」に強制的に変化(在宅勤務、鎖国政策)が起き、その影響でこの10数年の趨勢であった「1.垂直方向の境界」の変化が加速されつつある、というのが前回の座談の中心テーマでした。
今回はそれに加えて「2.水平方向の境界」「3.ステークホルダーとの境界」「4.人口属性の境界」についても議論が広がっていきました。また、スタートアップと大企業のODコミュニティをつなげるプロジェクトも生まれて来そうです。
実は弊社バランスト・グロース・コンサルティングの10年前の隠れスローガンは“Connect Different”でした。異なるもの同士が異なるつながり方をするところに、新しい繁栄(必ずしも物質的とは限りません)が生まれる、という思いを込めた言葉です。
この座談会コミュニティを発展させて、スタートアップと大企業、若手とシニアが交わる中空の交差点のような座談会にしていきたいと思いました。今後コラムをお読みいただいた方々にも新しいメンバーとして加わっていただくような、公開座談会ライブのような企画を催行したいと思っています。ぜひご期待ください。
座談会レポート「新型コロナウィルスで加速する組織の『進化』と『衰退』(在宅3ヶ月目の現在位置)~リモートワークで組織と働き方はどう変わっていくのか」前半はこちら