みなさんは「プロセスワーク」という言葉をご存知ですか?ひとに関わるものごとの自然な流れ(プロセス)に取り組み(ワークし)、起こるべき変化が何かしらの理由で滞っていたら「全体」にとってよりよい変化が起こるようにサポートする実践的アプローチ (参考:日本プロセスワークセンター) のことで、近年、組織開発やリーダーシップ開発に有効なメソッドとして注目を集めています。
2018年3月20日-21日、バランストグロース主催にて、米国プロセスワーク研究所元所長 スティーブン・スクートボーダー博士をお招きしてワークショップが開かれました。今年で3年目になるスティーブン博士によるトレーニングは、「自己と他者の”葛藤”を扱いファシリテーターのスキルを上げる」ためのプロセスワークの理解と実践ワークです。
スティーブン博士からの濃厚な研修を受けて、参加者としての気づきをいくつかをご紹介します。
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研修のトピック:「関係性、葛藤と変容のためのファシリテーションスキルを磨く」
Day1:
-「プロセス・ワーク」の概要
-自分自身の関係性の葛藤を解決する
-葛藤における自分自身の立場を見つける
Day2:
-プロセスマインドから得るスペーシャスネス
-二者間に起きる葛藤状況をメッセージの「送り手/受け手」の立場から解決する
-二者間に起きる葛藤をファシリテートする
“葛藤”は通常、私たちが自由に自分自身を表現できない場面で起こります。「言いたいことがあるけれど言えなかった」「相手とのやり取りが終わった後もモヤモヤした状態が残っている」「相手との関係の中で反応(怒りや哀しみなど)が出ている」そんな状態です。
この葛藤ですが、普段、私たちは葛藤状況にあるときには、自分自身の葛藤状態とは向き合わず、相手に意識が向かう傾向があるそうです。その結果、自分の側面を他者に投影するだけで葛藤自体は解決しないということが起こっています。
「葛藤に取り組む最も良い方法は、自分たちの靴を脱ぎ、相手の立場に立つこと」ということを、ファシリテーター自身が「自分自身の葛藤解決」に取り組むことを通して考えました。エクササイズはペアになり対話形式で進みます。
1)自分が何かに対して反応(Reaction)がある葛藤状況について考えます。道徳や好き嫌いなどの価値観とは分けた「不快に思ったこと、自分の中に強い反応・エネルギーが起こったこと」についてです。相手の中にある何に一番怒っているのでしょうか?
2)次に、自分が反応している相手に焦点を当て、相手の立場に自分を置きます。その役割/立場を取ってみると、相手のどんな部分に自分は強く反応しているでしょうか?
3)相手の振る舞いの深いところにある本来の目的や質を見つけ、それを感じてみます。相手の中にある質に対して気づくものはあるでしょうか?
このように、参加者たちは自分の経験から葛藤状況を観察していきます。すると、相手に対して怒りを持っていたものと同質のものが自分の中にあると気づいたり、相手が自分を怒らせるときの態度やあり様、意識状態が、自分にとって何らかの有益な情報を含んでいることに気づき驚いたりします。
このワークから得た学びは、「相手に反応しているものは、自分の中にも同質のものがある」ということ。また、自分に起きている葛藤を見てしっかり受け入れられると、相手に自分を投影する必要がなくなり、相手との関係性も変わるということでした。葛藤として現れていた本来の自分の部分を認めるには時間がかかりますが、次に葛藤が現れてきたら”welcome to myself!ようこそ葛藤さん!”と言って葛藤をメッセージとして迎え入れていきたいものです。
葛藤には、「自分」「他者」「全ての立場を気遣う立場」の3つの側面がありますが、相手との対立や葛藤状況において、私たちは「自分が正しい」と思う傾向にあります。自分も相手も互いが「自分が正しい」「共感してほしい」と思っているということです。しかし、この自分の立場をしっかりとるというのが実は難しく、重要だというのです。
「相手のことを考えなさい」「自分のことばかり言うんじゃありません」など、これまでの親や教師、社会におけるいろいろな教えから、私たちは葛藤の状況において「自分の立場」を取ることをすぐに諦めてしまう傾向にあるそうです。
ですが、時には、自分の立場を取り切ることも大切です。例えば、相手が権力や何かしらのパワーを持っている時に、ファシリテーターとして(あるいは個人としても)課題を解決するために立ち向かうことが必要なシーンがあります。そのために、「自分が言いたいことの本質を見つけ」て自分の立場を深く完全に取ることが大事とのことでした。
実際にワークの中で葛藤に注意深く意識を向けると、普段は全く気づかなかった「相手に対する自分の真のメッセージ」があることや、それを見つけた時に、「相手との関係性も少し変わりそうだ」と言う希望が見えたという嬉しい発見がありました。葛藤と関わる、そんな新たな視点を得ることができました。
ファシリテーター自身が取り組む「自分自身の葛藤解決」への準備(ワーク)の次に「二者間に起きる葛藤を扱う」関係性のワークに進みました。二者間の葛藤状況をメッセージの「送り手」と「受け手」の2つの側面から見ていきます。
私たちは怒りなど葛藤に身を置いていると、自分が伝えたい本当のメッセージ(ニーズ)に気づくことができず、相手に送るメッセージが不明瞭になります。例えば、明け方3時に帰宅した夫に憤慨する妻の場面をスティーブン博士は用いていましたが、妻が本当に夫に伝えたいことは「寂しかったわ」「遅くなるときは心配になるから時間を教えて」といったメッセージだったのに、「なんでこんなに帰りが遅いの!」と言ってしまいます。そうすると、相手は怒っている人の”態度”に反応してますます葛藤は緊張状況に入ります。
メッセージは上手に送るほどに相手は受け取りやすくなります。葛藤状況における「送り手」になるための4つの準備は次の通りです。
1 Inner work/インナーワーク
2 Find the message/エッジを見つける
3 Spacious/スペーシャネス
4 Deliver well/上手に伝える(フィードバックを上手に送る)
葛藤のメッセージに気づくためのワークや、葛藤を解決するために取れる態度、フィードバックなどです。
同様に「受け手」側の準備もあります。
1 Spacious/スペーシャネス
2 Stand for yourself if need be/必要であれば自分で守ること
3 Inner work on personal History/個人史のインナーワーク
4 Listen to the Accusation/批難を聴く
特に、「受け手」側の準備の「批難を聴く」という考え方、その技術は印象深いもので、批難・批判のメッセージの中にある価値を見つけるということについて、例えば、次のような問いを用いて考えていきました。
1)自分が批難されている状況を思い出し、できる限りまっすぐに受け取ろうとします。
2)相手が批難・批判しているものの本質的なメッセージを見つけようと観察します。批難のされ方がフェアでなかったものだとしても、完全に受け入れられなくても、それが素敵なギフトだと思って、批難の中にある真実を見つけようとトライします。
3)その批難のどこに2%の真実があるでしょうか。その価値を発見した時に、自分自身はどう感じるでしょうか。
大変なワークでしたが、価値を発見できると、非難した人に対する思いやりや慈悲心を持つかもしれない、そこから、相手との関係性が少し変わることもあるかもしれないことを体験し、批難も受け手にとって価値ある情報でありギフトになるという発見をしました。
2日間の最後は「二者間に起きる葛藤を扱う」ワークについて、職場や生活などあらゆる場面で葛藤が激化した状況にどう働きかけていくかということを、3人グループでデモンストレーションしながら学びました。そのワークから得たファシリテーターのポイントは大きく4つ
・葛藤が激化している緊張状態を柔らかくする方法・タイミングを見極める
・葛藤の中から批難を見つける
・葛藤の当事者がそれを扱えるかを見る
・批難の中にある真実のメッセージを見つけ、それを持ち出す
人は怒っているなど葛藤状況では本当に伝えたいメッセージが見えにくくなるため、第三者として介入して葛藤からギフトを見つけるお手伝いをするというポイントを教えていただきました。また、このワークを通して「謝罪は緊張のテンションを下げるけれど、対立/葛藤そのものは解決しない。」「謝ること以上の深いメッセージを持っている」ということに、すぐ謝って場を収めようとしがちな私はハッとさせられました。
これまで、「葛藤」というものは嫌なものとして目を背けてきましたが、その葛藤の中にこそ「私たちを成長させるギフトがある」と教えていただき、捉え方が一変したことはとても得難い学びとなりました。スティーブン博士の豊かな洞察力とファシリテーションスキルはもちろん、温かく魅力的な人柄に触れながら学べる次の機会は来年の秋頃だそうです。智慧のシャワーを浴びるような、豊かな学びの場が今後も多くの方に届いていくことを願います。
and seeds代表 コーチ 小畑怜美