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グローバルビジネスにおけるカルチャーギャップという落とし穴(第1回)スケジュール超過:国境を越えると時間がかかる2017年1月16日

 

2017年01月16日 祖父江 玲奈[バランスト・グロース コンサルタント

海外旅行に出ると、面白い違いの発見がいくつもあります。食べ物の違いだけでなく、どんな店があるか、また買い物の仕方など、違いの発見は海外旅行の醍醐味の一つといえます。 そう、いろいろな国の文化があることを、私たちは認識しています。ですが国の文化がグローバルビジネスに対しても大きな影響を与えていることを認識しているでしょうか? グローバルビジネスが当たり前になってきた現在の世界には、異文化がもたらす様々な落とし穴があります。このコラムでは、異文化によってビジネスにどんな影響があるのか、そして、異文化に適応する力をつけることでどのようにビジネスを改善しうるのか、みていきたいと思います。 <目次>(予定) 1. スケジュール超過:国境を超えると時間がかかる 2. チームの機能不全:海外メンバーのやる気がない、協力してくれない 3. マネジャー解任(帰国):期待されるパフォーマンスが発揮できない

●異文化というビジネスの厄介者

文化とは「集団に共通する心のプログラミング」である、とオランダのヘールト・ホフステード教授は定義しています。文化といえば規範や儀礼の差、例えば日本での名刺交換のやり方などが着目されますが、あくまで表面的なものです。名刺交換という商慣習の裏には、日本ではビジネスで何を大切にするのかという価値観があります。物事をどう見るのか、何が良くて何が悪いのか、その考え方は生まれた直後から、家庭や学校、そして組織や社会によって刷り込まれています。これが「心のプログラミング」です。 グローバルビジネスと聞くと、英語でのコミュニケーションが大変だ、なかなか相手が言っていることがわからない、と言語の問題に焦点があたりがちです。ですが、英語が上達すれば本当に問題は解決するのでしょうか? 中国とのビジネスでは英語ではなく、日本語通訳を使うことが多くあります。通訳や翻訳に時間がかかることはありますが、快適なはずの日本語になっても「意図が通じていない」ことにイライラすることが多くあります。言語の問題ではなく、考え方、すなわち文化が違うのでビジネスでのコミュニケーションが難しいという事実に気づく必要があるのです。 ホフステードの6次元モデルは、国の文化を数値化することで、文化の違いを客観的に理解することを可能にしたツールです。文化を理解していないとビジネスにどんな悪影響があるのか、異文化によるビジネスの落とし穴について、6次元モデルで分析していきたいと思います。

●ケース「スケジュール超過」

グローバルビジネスによくある問題の一つが、「国を超えた話は時間がかかる」議論がなかなか前に進まず、予定より大幅に時間がかかるというものです。日本で検討するとすぐに終わるような検討が、国をまたぐと時間が長くかかり、計画に沿って進めることができない。スケジュールが長引くにつれ、労力も多く必要とされることになり、グローバルビジネスの大変さを痛感する点の一つでしょう。 時差など物理的な条件によって打ち合わせのタイミングが限定される可能性はありますが、検討期間が長引く理由は、もちろん時差ではありません。 ここで具体的なケースをみてみましょう。


日本本社が中国で市場調査を実施するため、中国の市場調査チームとキックオフを行いました。中国の市場調査チームは日本から赴任した永井マネジャーが中国人スタッフをリードしています。キックオフでは、調査規模や実施時期などの実行計画を確定するため、隔週でテレビ会議を開催し、スタッフレベルで検討を進めることで合意しました。 2ヶ月以上が経過し予定していた検討期間を過ぎましたが、実行計画はまだ決まりません。中国チームは会議のたびに対象都市や調査グループ数について新しい案を提案しているため選択肢は広がる一方で、日本が要望する中国としての推奨案はでてきません。 日本チームの飯塚マネジャーは後続業務への影響を懸念し、次の打合せに出席することにし、永井マネジャーも出るよう要望しました。 次の打合せで、実行計画は驚くほどスムーズに決定しました。飯塚マネジャーは実行計画が決定したことに大変満足しましたが、一方でこれまでの2ヶ月間、なぜこんな簡単な意思決定ができなかったのか、大いに疑問を感じました。


中国と日本は距離的には近く歴史的な関係も深いのですが、文化的には大きな差があります。6次元モデルで比較してみましょう。 (各次元は1~100で定量化されています) 

 

中国と日本の文化において、もっとも大きな差は「権力格差」と「不確実性の回避」の次元です。 「権力格差」とは、権力構造に対する考え方、上司のあり方を示します。 数字が高い中国ではヒエラルキーの存在は絶対であり、中央集権・指示命令型が好まれます。上司のあり方としては親のような存在として、命令すると同時に、きちんと面倒を見ること(進捗の確認やフォロー)が期待されています。 数字が相対的に低い日本では、上司はコーチ型に近く、指示はするが基本的に現場に任せるというスタンスです。ヒエラルキーは便宜上必要なものという位置付けなので、基本は現場で考えて進め、上司の決裁を仰ぐアプローチになります。 「不確実性の回避」は不確実なことによる不安を回避するために、ルールなどを設けて不安を低減しようとする度合いを示します。 数字の高い日本はできる限り不確実なことを減らそうという考え方ですが、数字が低い中国は楽観的で、リスクの高い選択肢をとることも容易です。 このケースの問題点は、2つあります。 1つは中国側の永井マネジャーが現場に出す指示、関与の度合いです。中国メンバーはよりはっきりとした意思決定を期待しているため、指示が出ない間は次の案を模索している状態を続けています。日本チームはスタッフレベルで案を作ってから決裁を仰ぐことを想定しているので、スタッフで最善案を出そうという議論の進め方をしているので、出口がなく議論が前に進まないのです。 2つ目の問題は、後続タスクに対する不安の感じ方です。日本側は計画通りに進めたい、なぜ計画から遅れても問題を感じていないのか、と不安になっていますが、その不安は中国側には共有されていません。調査の品質が高いことを目指している中国チームは、計画に対する遅れは大きな問題とは思われていないのです。

●コツ「共通の目標を立てる」

最も重要なのは、権力格差のギャップをどう埋めるのかというアプローチです。 コツは「共通の目標を立てる」ことです。ビジネス(組織)に対する目標を明確にすることで、権力構造としての位置付けを確認します。日本も中国も、集団主義に近い(個人主義vs集団主義の数字が低い)ため、ビジネスの背景情報を共有するのが得意な文化ではありません。市場調査が双方のビジネス(組織)にとってどういう意味があるのかを確認し、共通の目標を設定することで、日本チームと中国チームが一体となった市場調査チームを立ち上げることが可能になります。 また、一体となったチームを作ることは、お互いのチームやメンバーの役割を明確にするということにつながります。権限移譲やマネジメントへの上申レベルを明確にすることも可能になるでしょう。 目標を立てる際は、不確実性の回避のギャップを考慮し、達成できない場合の影響を共有することも一つの方法でしょう。日本側の独りよがりの不安ではなく、チーム全体に対する懸念として示すことで、目標の達成に向けた危機意識を共有することが重要です。 権力格差のギャップをしっかり埋めておくことで、議論が進まないまま時間や労力を無駄使いすることなく、成果を出せるようになるでしょう。 グローバルビジネスにおける異文化の落とし穴、いかがでしたか。 次回はメンバーのやる気がない、言われたことしかやらないといったケースについて見ていきたいと思います。