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2013年国際コーチング心理学会参加報告   ― 実務者と心理学者のノウハウを組織へ ―2013年7月29日

2013年07月29日 野田浩平 株式会社ココロラボ

※各国で発展してきた「コーチング」という手法。その国によって位置づけや認識が少しずつ違うようです。本稿は、認知科学を専門として、うつや不安という臨床心理学やカウンセリングでも対象とされる感情を研究テーマで扱ってきた野田浩平博士から、イタリアで開催された国際コーチング心理学会の報告を寄稿頂きました。

はじめに

1990年代から世界に広がり、日本でも普及している一般向け(ビジネス、ライフ等)のコーチングですが、欧米では心理学の文脈で研究が進んでおり、学会団体も各国設立されています。(※詳細は日本でも2011年に翻訳された『コーチング心理学ハンドブック』にその歴史が載っています)大きな流れとしては、1970年代にアメリカ西海岸で勃興したカール・ロジャースの人間性心理学などもその端となっている「人間性回復運動」やエサレン研究所の活動がコーチングの源流の一部となっているところから、コーチング心理学もいわゆるカウンセリング心理学や臨床心理学の研究者が研究を拡張してスタートした流れがあります。

筆者は認知科学を専門として、うつや不安という臨床心理学やカウンセリングでも対象とされる感情を研究テーマで扱ってきたため、1990年代後半からカウンセリング領域でも一部研究を行ってきました。そして、仕事としてはうつ、不安という臨床領域の感情だけではなく、モチベーションやEQという感情全般を扱うため、その操作的方法論となりうるコーチングについても追跡してきました。

上述の『コーチング心理学ハンドブック』は、その著者の出身国である英国で2007年に出版され、他にもハンドブック的な書籍は2000年代中盤に欧米で出版され、学会団体も徐々に設立されてきました。コーチング心理学の世界的中心拠点の一つである英国心理学会の下部グループでの出版物’Coaching Psychologist’は2005年に出版を開始し、2006年には国際誌である’International Coaching Psychology Review’を出版しています。国際学会は2006年に第1回を実施していますが、英国心理学会の下部組織であったコーチング心理学グループが独立した学会になったのは2008年であり、国際学会に拡張したのは2011年です。このように近年、非常に早いスピードで学会活動が進化しています。欧米、中東、オセアニアそしてアジアの国でも十数か国で学会が立ち上がってきているのです。

これらの学会は、その活動をプロモーションするために、2010-2011年度の学会シーズンより、各国で開かれるコーチング心理学関係の学会をすべて「国際コーチング心理学会シリーズ」として開催しています。今回は2013年度の第3回(第3年度目)国際コーチング心理学会としてイタリアのローマで2013年5月16日と17日に開かれた学会 ‘3rd International Congress of Coaching Psychology 2013 Italy DEVELOPING THE WEAVE AND WARP’ のレポートを本稿で行います。

大会はローマで…

大会はローマのテルミニ駅から徒歩すぐにありローマ大学に隣接しているフレンターニ会議センターで行われました。出席者は約500名程度で、イタリアの研究者、実務家、学生はもとより、欧州、米国、中東、アジア、オセアニアからの出席者もいました。日本からも私を含めて2名が発表者として出席しています。1日目、2日目とも午前中が招待講演を含めた口頭発表で、午後は3トラックに分かれ、技術セッションや研究発表が行われていました。 Clipboard01.jpgのサムネール画像

大会は国際コーチング心理学会の会長であるシティ大学ロンドン心理学科教授のパーマー博士の講演でスタートしました。パーマー博士は元々カウンセリングやストレスの専門家で日本でもカウンセリング心理学のハンドブックが翻訳されるなど臨床心理の領域での専門家でしたが、2000年代よりコーチング心理学の発展に尽力されています。コーチング心理学ハンドブックの編集者でもありますが、講演では世界のコーチング心理学の広がりについて講演されました。この10年間の経営系や心理系の学会誌におけるコーチングに関する研究の広がりが数字のインパクトをもって紹介されました。また、実務上では臨床心理士が国家資格となっている英国ではコーチ、およびコーチング心理学の専門家も厳格な基準のもとに資格制度が整い、運用にもルール化がされている。一方、大陸系のヨーロッパでは資格制度やトレーニングは整っているが、医療的なカウンセリングとの線引きは厳格なルールに則って禁止基準が定められているわけではない。また、米国ではコーチング業界は非常に発展しており、研究自体も多いが、コーチング心理学としてまとめての方向性はまだこれからであるとのオーバービューが示されました。( 写真:開会講演の国際コーチング心理学会パーマー会長の講演 )

続いて英国心理学会の心理療法審査会のチェアーであり、ビジネスコーチングでも著名で数々の受賞歴があるデービッド・レーン教授から組織においてリーダーが複雑性に対し如何に立ち向かうかというテーマについての講演が行われました。 3番目の講演はアメリカ心理学会(APA)、コンサルティング心理学会(SCP)、産業組織心理学会(SIOP)のフェローである米国のビッキー・バンダーヴィア博士からの企業事例の講演がありました。彼女は自身のコンサルティンググループでフォーチュン500企業に対する組織心理的なコンサルティングを多数行っており、今年からAPA及びSIOPのグラントを獲得し、コーチング心理学の研究を推進するといううれしい報告もありました。

他にもハーバード大メディカルスクールコーチング研究所のアドバイザーであるデンマークのステルタ―教授など錚々たるメンバーの講演がメインセッションでは行われましたが、日本にも参考になる講演がバルセロナのカタルーニャ心理学会コーチング部会長であるジメネス氏からありました。

スペインと日本の事情には共通点が多い

スペインのコーチング事情は日本と同様でコーチユニバーシティやCTIなどの各種トレーニング団体群の影響を受けており、資格もICFやその他欧米系の資格のチャプターがあるなど日本と近しい状況です。そして欧米のコーチング心理学の発展に合わせ、大学でもコーチングやコーチング心理学のトレーニングセンターやコースができてきています。日本と異なる点は、スペイン語圏で有力な存在論的(オントロジカル)コーチングが一分野として確立されているくらいのようです。

スペインでのコーチング心理学普及及び実務家コーチとの協業の最初のハイライトは2010年に国際コーチング心理学会を開催したところにあるようです。当時は開催に十分なメンバーが国内におらず様々な国の研究者のサポートを得て、15名の発表者に対し、250名の参加者を集め、学会を実施しました。そして、ICFなどの国際基準に準拠し、かつ、コーチング心理学の講義研修(100時間)や実務(100時間)、試験(面接)そして定期的な更新制度(5年更新、スーパービジョン制約等)を持つ資格の発行に至っています。

国内の各地域別に部会を設立し、2008年から活動しているマドリッド部会では25名の総会員に対し、20名の資格保有者、バレンシアでは45名の部会員、その他設立年度が若い小規模地方部会では10名程度の会員、そして最も規模の大きいカタルーニャ(バルセロナのある地方)では200名の部会員に対し、120名のコーチング心理学資格保有者が在籍しているそうです。 このような発展のモデルケースは日本においても参考にできるものであり、実務家と心理学者がチームを組んでその組織をできる場所から発展させていくことが重要かと思います。

前提ではありますが、他国の事例にもあるように心理学の専門家が個人あるいは組織に介入して関与することは、理論や事例や方法論の種類などにおいてよりリソースフルで客観的なツールや関わり方を提供することができるようになり、クライアントにとっても提供側のコーチにとってもメリットがあるといえます。

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写真:著者とパーマー教授

※野田博士は、コーチング心理学の普及を目指し、2013年9月21日に札幌で開催される日本心理学会でコーチング心理学に関するシンポジウムを開催、9月23日には東京池袋の大正大学で例年開催されているコーチングフェスタで一般及び実務家の方向けに同様のシンポジウムを開催予定です。ご興味がおありの方はバランスト・グロースまでご連絡ください。