組織の変容と切っても切れない関係にあるのが、個人の変容です。組織とは個人の集合体であると考えると、組織を変えるためには、集合体の構成員である個人が変わらなくてはなりません。
その中でも比較的新しいもので、最近ではバランスト・グロースでもコンサルティングや研修の場で活用している「免疫マップ」という手法があります。この「免疫マップ」は『なぜ人と組織は変われないのか――ハーバード流 自己変革の理論と実践』で紹介されているもので、ハーバード大学教育学大学院のロバート・キーガン氏とリサ・ラスコウ・レイヒー氏(彼女は同大学院で「変革リーダーシップ・グループ」の研究責任者を務める)によって書かれた本です。
本書は内容も非常にすばらしく、事例も豊富なのですが、ボリュームが多く(400ページ超)、ところにより内容が理解しにくい部分もあるため、読了し、使いこなすには、なかなか骨の折れる本です。また読み終えて、理解したとしても、ここに書かれている情報だけで個人と組織の「免疫マップ」を作成し、活用するのは容易ではありません。 そこでこの全3回のコラムでは『なぜ人と組織は変われないのか――ハーバード流 自己変革の理論と実践』の内容を読み解きながら、および「免疫マップ」の作り方と活用の仕方を考えていきたいと思います。
世の中にはさまざまな問題があります。そのような問題を解決するのが企業の本来の目的だと言っても言いすぎではないでしょう。 では、改めて「問題」とは何なのでしょうか?まず企業や個人などが目指す「あるべき姿」あります。一方で、それに届いていない「現状」があります。この「あるべき姿」と「現状」のギャップが「問題」であるというのが、ごくごく一般的な定義です。 しかし、『なぜ人と組織は変われないのか』では、問題をふたつに分けて考えることを薦めています。そのふたつとは「技術的な問題」と「適応を要する問題」です。これらは、もともと ロナルド・A・ハイフェッツ氏の『最前線のリーダーシップ』で紹介されているもので、次のように区別されています。
(なお、細かい話しですが、これら2つについて『最前線のリーダーシップ』では「問題」と訳されており、一方『なぜ人と組織は変われないのか』では「課題」と訳されていますが、本稿では、これ以降、『なぜ人と組織は変われないのか』にならい、「技術的な課題」と「適応を要する課題」と表現します)
書店にはさまざまなビジネス書や経営書が並んでいますが、その多くは、目の前にある課題にどう対処するのかということを教えてくれます。もちろん、それはそれで役に立つものですが、そのような本が対象としているのはハイフェッツが言うところの「技術的な課題」です。上の図に書いたように、「技術的な課題」は必ずしも簡単な課題ばかりではありません。例えば、複雑な数式が並ぶファイナンスに絡む課題でも、その数式の使い方についての知識を動員して解くことができれば、それは「技術的な課題」なのです。
一方、「適応を要する課題」は、既存の思考様式では解決できない課題とのことです。この課題に対処するためには、思考様式を変えなければならないとまで書かれています。たしかに、そういう課題が私たちの身の回りにあることは、なんとなくであっても理解はできています。ロジカルシンキングの本で紹介されているような手法を使っても、そうそう解決できるものではないでしょう。では、一体、どうすれば良いのでしょうか?
答えは「知性を高めること」です。ただし、そうはいっても闇雲に勉強をすればいいというわけではありません。『なぜ人と組織は変われないのか』では、次の図のように、3段階で知性が高まっていくことが紹介されています。
知性の各段階の詳細については『なぜ人と組織は変われないのか』の第1章を読んでいただくとして、この3段階を分けているものは何かというと、自分が世界をどう見ているかの違いです。 図の右側に載せている図からわかるように、初期の段階である「環境順応型」知性では、自分は集団の中のひとりという位置づけになっています。しかし、それが「自己主導型」知性に高まることで、自分が元々いた世界を客観的に見られるようになります。 そして、それよりも上位の状態が「自己変容型」知性と呼ばれるもので、自分の周りには矛盾する複数の視点があることを認識できている状態です。このような状態にまで知性が高まることで、適応を要する課題を克服する視点が得られるのです。 では、このような段階にまで知性を高めるためにはどうしたら良いのでしょうか。それについては、第2回でご紹介します。
最後にロバート・キーガンが重視する「成人の知性の発達段階理論」をベースにした360度リーダーシップサーベイ「LCP」をご紹介します。
結果を生み出すことよりも慎重さを、生産的な行動よりも自己防衛を、協調性の構築よりも攻撃性を優先しているようなリーダーシップスタイルです。これらのスタイルでは他者に認められること自己を守ること、操作的に結果を得ることに焦点が向けられ、リーダーシップや可能性の発揮を自ら制限することにつながります。
詳細な研究に基づく、リーダーに求められる重要なコンピテンシーです。結果達成の度合い、他者の能力を引き出しているか、ビジョンを持って組織を率いているか、自らの成長に力を注いでいるか、誠実にかつ勇気をもって行動しているか、システム(組織やコミュニティー等)の向上に貢献しているかを測定します
合計29項目からなるこのサーベイにより、リーダーの現在の行動が起因している潜在的な思考パターンに光を当てることによって、リーダーは新しい選択と可能性にアクセスできます。
ご興味があれば、LCP(リーダーシップ・サークル・プロファイル)の正規代理店、バランスト・グロース・コンサルティングにお問い合わせください。
【バックナンバー】
組織における免疫マップの活用 第1回:私たちが直面している問題の本質と「免疫マップ」