第2回目のコラム「組織における免疫マップの活用 第2回:ツールとしての「免疫マップ」とその使い方」では、例を見ながら免疫マップとは具体的にどういうものかを見ていきました。しかし、ただ見るだけと、書いてみるには大きな差があるので、実際に書く際に気をつけるポイントを簡単に見ていきましょう。
【第1枠】
まず第1枠の「改善目標」です。ここは免疫マップのスタート地点とも呼べる部分ですが、この部分の目標設定が免疫マップの質を大きく左右します。『なぜ人と組織は変われないのか』では、「ひとつの大きなこと(one big thing)」と表現していますが、ここに書く目標が自分にとって本当に取り組みたいと思うようなものでなければなりません。しかも、本当に取り組みたいと思っていても、簡単に達成できるものでは意味がありません。自分にとって重要で、改善の余地がある目標を設定するようにしましょう。特に、過去に取り組んだものの、うまく改善できなかったような目標を取り上げてみるのが良いでしょう。
【第2枠】
次の第2枠は「阻害行動」です。英語では Doing/Not Doing Instead と呼ばれていますが、改善目標につながる行動をする代わりにやってしまうこと、あるいはやらないことを書く部分です。つまり、ここには「改善目標の達成を妨げる行動」を書くことになります。過去に第1枠の改善目標に取り組んで途中でやめてしまった経験がある場合、その改善を阻害するものとして何が起きていたかを思い出してみると良いでしょう。そして、なぜそういう行動をとってしまうのか、パッと思いつかないものであれば尚良いです。なぜなら、それが次の「裏の目標」につながってくるからです。
【第3枠】
次の第3枠は「不安ボックス」と「裏の目標」です。ここは書くのが難しい部分ですので、すぐに書けなくても心配せず、じっくり時間をかけて書いてみてください。「裏の目標」を書きやすくするには「不安ボックス」について丁寧に考えてみることが役に立ちます。「不安ボックス」に入る言葉を考える時には、「○○を恐れている」の○○の部分を想像してください。例えば「ばかにされる」「自己中心的に見られる」「弱く見られる」というような感情につながる言葉を出してみるのが良いでしょう。そこから掘り下げて「裏の目標」を書いてみます。
【第4枠】
最後の第4枠は「強力な固定観念」です。これは第3枠で出した「裏の目標」と強く結びついている、自分の深い部分にある考え方を書く部分です。どちらかと言えば、口に出したくなり、思い出すのが嫌だと思うようなものを挙げるのが、この部分になります。
以下のような架空の人物、田中課長がいたとします。
「問題のある部下に対して強く指導できない「良い人キャラ」の田中課長。このままではいけないと自分でも思うが、実際は部下の問題を見て見ないふりをしてしまい、何も変わらない。」
彼の免疫マップは以下です。
免疫マップは「変われない状況」を見える化する優れたツールですが、それ自体にはどのようなステップで変わってゆけば良いかの手順は含まれていません。そこで他のコンセプトと組み合わせる必要が出てきます。お勧めはプロセスワークです。
プロセスワークは個人や組織の変革を扱うことに長けた心理学です。その基本は以下の図で表せます。
左側には1次プロセス=慣れ親しんだものがあります。現状です。
右側には2次プロセス=現れ出ようとするものがあります。
その間には見えない壁(エッジ)があります。
そこに免疫マップで洗い出された4つの項目を赤い字で位置付けてみます。
まず【改善目標】は現れ出ようとしている未来の姿なので、2次プロセスに配置されます。
それを邪魔する【阻害行動】は、慣れ親しんだものであり、1次プロセスに配置されます。
阻害行動を引き起こしている【裏の目標】も同じく1次プロセスに配置され、【改善目標】と相対するものとして描かれます。
そして根深く存在する【強力な固定観念】は、まさにエッジに存在します。
一般論として、プロセスワークは以下のような働きかけを行います。
・ディスターバー(1次プロセスに居続けることを妨害するもの)を増幅する
・ アトラクター(2次プロセスにあり、魅惑するもの)を増幅する
・ ロール(役割)をスイッチする
・ すべてのものを平等に扱う(深層民主主義)
・ エッジに対して丁寧にワークする
・ エッジのトンネルを一気にくぐり抜ける
・ 相手に容易に理解される客観的な現実だけでなく、相手に理解されにくい「大切な思い」も扱う
免疫マップで洗い出された状況に対し、青い文字で書き加えたような働きかけが有効です。詳しくは以下のユーチューブ動画で解説していますが、1例だけご紹介しましょう。
1次プロセスに居続けることを妨害(ディスターバーを増幅)してみます。田中氏のような「良い人キャラ課長」をよく思わない鈴木専務という上司がいたとします。田中氏に鈴木専務になりきってもらい、空の椅子にすわっている架空の田中課長に対し、「良い人キャラ」に対する苦言を呈してもらいます。このワークにより、今のままではダメだという危機感が田中氏に醸成される効果が期待できます。このワークはディスターバーの増幅であるとともに、プロセスワークならではのロール(役割)スイッチも駆使しています。
その他の青い文字については、下記のユーチューブ動画で詳しく述べています。
免疫マップとプロセスワークを組み合わせる。皆さんもぜひ試してみてください。
【バックナンバー】
組織における免疫マップの活用 第1回:私たちが直面している問題の本質と「免疫マップ」