1996年に発表されたコッター教授の「変革8ステップ」はあまりにも有名です。しかし、彼が2014年にその改訂版を提示したことは、日本ではあまり広まっていません。このコラムでは、概要を紹介すると共に、改定の趣旨とプロセスワークの関係について触れてゆきます。
新たな8ステップは8個の加速装置(Accelerator)とも表現されています。8個はステップでもあるのですが、それが同時にグルブルと回り、その結果として変革全体が「巨大な機会」を獲得することへ向けて進む姿が描かれています。
各ステップの改定後と改定前の比較です。ステップの4と5が大きく(強い表現に)変わっています。
【1】
2014:1 CREATE A SENSE OF URGENCY 危機感(切迫感)の醸成
1996:Establishing a sense of urgency
【2】
2014:BUILD A GUIDING COALITION 連帯チームを構築する
1996:Forming a powerful guiding coalition
補足:Select Few + Diverse Many 少数精鋭 + 多様かつ多くのメンバー
【3】
2014:FORM A STRATEGIC VISION AND INITIATIVES 戦略的なビジョンと戦略的活動を形成する
1996:Create a vision
補足:Head + Heart 論理+感情
【4】
2014:ENLIST A VOLUNTEER ARMY 手上げ式の軍隊を募集する
1996:Communicating the vision
補足:非常に多くの数の従業員が同じ機会をとらえ、同じ方向に向かう時。その時だけ大規模な変革が起きる
Have to + Want to やらねばならない+貢献したい
【5】
2014:ENABLE ACTION BY REMOVING BARRIERS 障害を排除し、アクションを可能にする
1996:Empowering others to act on the vision
補足:非効率なプロセス、古い規範といった障害を排除する。典型的障害は、各部門のタコツボ化(サイロ)、自分の範囲にこだわること(教区制)、目標値達成へのプレッシャー、自己満足、陳腐化したルールと手順、鍵を握るステークホルダーやリーダーにアクセスできないことである
【6】
2014:GENERATE SHORT-TERM WINS 短期的勝利を生み出す
1996:Planning for and creating short-term wins
【7】
2014:SUSTAIN ACCELERATION 加速の継続
1996:Consolidating improvements and producing still more change
【8】
2014:INSTITUTE CHANGE 変化の定着
1996:Institutionalizing new approaches
主要な変更点5個を図示しました。プロセスワークとの関連の深さが見てとれます。これはある意味当然のことかもしれません。つまり、コッター教授が8ステップの発表後18年にわたって様々な変革を実践するなかで「変革に必要なこと」「変革において困難なこと」を実地に味わってそれを反映しています。個人と集団の変革を深いレベルで扱うプロセスワークと通じるものが見える化されました。
「変更点とプロセスワークの関係」と表現しましたが、そのいくつかは、「まさにプロセスワークの考えと同じです!」と言いたくなるものです。また、「お気持ちは非常にわかりますが、こんなアプローチもありますよ」とより広いコンセプトを提示したくなるものもあります。
まず「Select Few + Diverse Many」ですが、様々な考え方を平等に扱う深層民主主義(ディープデモクラシー)の考え方に通じるものがありますし、具体的に多様な考えを持つ多数のメンバーを集めたなら、ワールドワークを行って学びを深める手段もあります。
「Head + Heart」「Have to + Want to」に関しては容易に共有できる現実(CR)だけではなく、おのおのが大切にしている思いのレベルの現実(DL)や本質(E)を扱うことと、ほぼ同義と言えるでしょう。
「障害の排除」に関しては、「障害」を極めて重視する点ではプロセスワークも同じで、エッジと呼んでいます。ただし、コッター教授のアプローチは北風と太陽でいうところの強烈な北風アプローチと言えます。それが間違いではないのですが、プロセスワークではエッジから大切なものを学ぶこともありますし、エッジ(トロル)と交渉したり、エッジのトンネルをいっきに潜り抜けたりもします。
「軍隊」に関しても同様です。多数の論理で勝利するのがコッター教授のプランであり、これもいちがいに間違いとも言えません。しかし、プロセスワークでは、少数派の意見を丁寧に広い、そこから多数派・少数派の活発な議論につなげ、多数派が成長し、少数派もまた成長するといった流れも想定しています。
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