プロセスワークを活用した組織開発とコーチング ~バランスト・グロース・コンサルティング

リーダーシップ教育における体験型アクティビティ ―現在のメインストリームと今後のフロンティア―2013年9月25日

2013年09月25日 松田 栄一 [バランスト・グロース 代表パートナー]

●企業研修における体験型アクティビティのメインストリーム

企業研修におけるリーダーシップトレーニングの世界でアウトドアでの体験型アクティビティが取り入れられるようになってきたのが1980年代。源流は1941年にイギリスで発祥した世界30ヵ国にネットワークを持つ非営利の冒険教育機関のアウトワード・バウンドとされている。その後、本格的なアウトドア(登山や激流下り等)までいかなくても、体験型の学習を教育の現場で使えないかという発想でアメリカの公立高校の先生たちが1971年に非営利組織として始めたのがプロジェクトアドベンチャーという活動です。元々は最初に理論があってプログラムが作られたのではなく、体験の中から「アドベンチャー活動をした後、人は一回り大きくなるようだ」という気づきからスタートしたもので、何故そうなるのか説明できなくても構わないというスタンスだったものが、社会構成主義や経験学習モデル、リーダーシップ理論等を取り入れ、1980年代半ばからは企業のマネジメント教育にも取り入れられるようになって今日に至ります。

このタイプの手法の最大のメリットは、五感を総動員してリーダーシップで重要なポイントを受講者に体得してもらう点でしょう。

我々もリーダーシップ研修や職場のチームビルディングでは部分的にこうした手法を取り入れていますが、基本的に現在の企業研修で活用する場合は3つの目的で使われていると思います。

1)マネージャーが組織ビジョン(ありたい組織風土など)を描くきっかけとして使う。

2)マネージャーにチームマネジメントのポイントを会得してもらうために使う。

3)チーム活動と言う関係性の中で自分のリーダーシプの癖を知る

実際の企業研修では2)の狙いで使われることが多いでしょう。このパターンでは、例えば三隅氏のPM理論(P=Performance function 目標達成機能とM=Maintenance function集団維持機能)に落とし込むように実施するアクティビティを選びます。ファシリテーターとクライアントの研修担当の間ではラーニングポイントや振り返りで出てきてほしい言葉、例えば「目標を明確にすることが大切だと思いました」「お互いの信頼感、声掛けがチームの士気に多いに影響する」「作業手順、役割分担と時間管理の重要性に気づいた」を事前に握って実施するケースが殆どです。かつては講義スタイルで上記のようなラーニングポイントを受講者に流し込んでいたことに比べると、受講者満足度、研修後にも残っている効果が高いと思います。

●体験型アクティビティのこれから

この体験型アクティビティ。今後のフロンティアはどこにあるのでしょう。 

先日、米国のキリスト教教育の大学を出て、日本アウトワード・バウンド、インパクトジャパンと体験型教育の第一人者の関口守氏の協力を得てバランストグロースのメンバーで探求する機会がありました。我々が経験したのはロッククライミング。我々はロッククライミングは全く未経験者だったので、登ると言われた岩を見たとき、少し圧倒されましたが、実際に岩に取り付いてみると圧倒を越えてややパニックに。チクセントミハイのフロー理論でいうとチャレンジするタスクの難易度を自分のスキル大幅に下回る「不安」の領域にどっぷり浸かる羽目に。最初は不安ながらも、「他の人に出来て私に出来ないはずが無い。あのルートで行けそうだ」と計画が頭によぎるが、登って行けそうなルート、手足が引っかかるルートが見つからない。岩にしがみついているだけで筋力も体力も急速に低下して行く。そうすると「これは絶対無理」「そもそも殆ど説明無く、こんなことをやらせる方がおかしい」「私の今の体力では、、今日履いてきた靴では、、私の体型では、、」「ここでやめたら格好わるい」「俺の根性ってこんなものか。なんて情けないんだ」とマインド(左脳・思考)のつぶやきがうるさくなる。その度に、手足から力が抜けて行く。気力体力のリミッターを振り切った究極の体験の先にどこかで吹っ切れる瞬間が来る。頭でぐだぐだ言うのをやめて、仲間のロープを信じる。ちょっと試して滑り落ちる挑戦をする。体が勝手に動いて岩と一帯になり動き出す。

この経験の意味は何なのでしょうか。究極の状況で自分の心・メンタルモデルと向き合うことで、現在の自分の内面のパターンを知り、同時に新たな内面のパターン・感覚を掴む。元々の冒険教育の原点でもあり、体験型研修のフロンティアでもあります。関口さんが我々に提示しようとしていた体験型アクティビティのフロンティアを見えるかする為に、無理矢理ではありますが、リーダーシップ研究の第1人者アデア氏の行動中心型リーダーシップと学習タイプの表にポジションしてみるとこうなります。

 
日本の企業研修ではまだまだこのエリアのリーダーシップ研修は実施が難しいと思いますが、OBSが裏でプログラム作りに協力したアメリカンリーダーシップフォーラムの研修でもリーダーシップとスピリチュアリティの結びつきを重視して、大自然の中でのソロを研修に組み込んでいますので、日本企業でも10年以内には事例が増えるかも知れません。