2013年05月29日 佐甲 真吾[バランスト・グロース パートナー]
※本稿は、MOBIUS EXECUTIVE LEADERSHIPのニュースレターの記事を、著者であるジェレミー・ハンター氏の許諾の下、抄訳・再構成したものです。
これから2回にわたり、最近のマインドフルネスに関する発見とその発見がもつより効果的なリーダーシップのための意味を探る。今回は感情的反応、注意の仕方と記憶、知覚と認知に関して、次回は共感、意思決定と革新に関して、マインドフルネストレーニングが及ぼす影響を考えて行きたい。
INDEX——————————————————–
●反射的な感情を押さえる
●自身の視野に囚われずに現実を知覚する
●共感を育む(第5回)
●創造的に行動する(第5回)
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リーダーであるということは、いわば社会の中における冒険である。そこでは関係性が、物事を成し遂げるための鍵となる。関係性の質が問題となるのである。状況がよりストレスに満ちたものになるときほど、このことがよりあてはまる。リーダーの感情は伝染しやすいからである。
Sy, Cote と Saavedra(2005)は、リーダーの気分が、個々のグループのメンバーに対して、グループの感情のトーンに対して、そしてコーディネーション・努力・計画に関する3つのグループプロセスに対して与える影響を実験する研究を行った。
そこで発見されたことは、「リーダーが前向きな状態にいる時は、否定的な状態にいるときとは対照的に、個々のグループメンバー自身もより前向きになり、否定的にならない雰囲気を経験する。」、「前向きな状態にいるリーダーと共にいるグループは、否定的な雰囲気のリーダーと共にいるグループより少ない労力で共同作業を実現した。」という2点である。気まぐれなリーダーの感情をなんとかしようとすることや、その感情が起こらないようになんとかしようとすることに対して、多くのエネルギーが使われる結果、メンバーの集中が他の深刻な課題からそれてしまうことがしばしば起きている。
これまで、「適応に関する問題を解決するリーダーとなるためには、関係性のマネジメントが決定的に重要であること」、そして「リーダーの気分がその関係性に影響をあたえること」について述べてきた。ここから言えることは、「うまく自分自身の感情を手なずける能力は、重要なリーダーシップのコンピテンシーであり、マインドフルネストレーニングが絶大な貢献をもたらし得る」ということである。
Cresswellら(2007)によって行われた、マインドフルネスに関する初期の神経画像研究によれば、より高いマインドフルネスの特質を持つ参加者は、前頭前野皮質の活性化を示すだけでなく、困難な感情にさらされた場合に扁桃体の活動が大きく減少する。
前頭前野と扁桃体の活性化の逆相関は、マインドフルネスの特質が低い参加者には見つからなかった。さらに、高いマインドフルネスの特質を持つ参加者は、今経験している困難な感情に名前を付けるやり方で、経験していることの否定的な影響を、マインドフルネスの特質が低い参加者よりも減少させた。
マインドフルネスのトレーニングは、否定的な影響をよりうまく手なずける助けとなった。Jha, Stanley ら(2010)は、感情的な経験に対するマインドフルネストレーニングの有益な効果は、マインドフルネスのトレーニングに費やされる時間の量に見合ったものであるという十分な証拠があり、因果関係があること、そしてトレーニングの量が、感情が前向きになること、より幸福感を感じるようになること、感情的な反応が出なくなると同時に、負の感情が少なくなること、負の感情が繰り返されることが少なくなることと関係があることを明らかにした。
これらの発見は、マインドフルネストレーニングのあとに生じる扁桃体及び、感情プロセスに関わる脳領域の中で、抑制因子が誘発する神経活動の減少と整合がとれていると彼らは主張している。この結果は、マインドフルネストレーニングは自分自身の感情的、精神的なコントロールをうまくできない状況を改善し、情動を改善し得ることを意味する。
これらすべての研究が示唆しているのは、私たちがストレス要因に直面する中で、マインドフルネストレーニングは、よりよく自身を制御することに役立つ力を持つということである。
私たちが世界を認識する方法は、私たちが参照するデータに基づいている。もしデータが正確でなく、関連性がないものであれば、私たちが作る意味合いは状況に対する現実の要請にそぐわないものになり、間違った手順を踏み間違いや失敗をまねく。
Herndon(2008)によって行われた研究によれば、マインドフルネストレーニングを受けた被験者はより客観的なデータを参照しようとするようになり、結果として、彼らの周りの世界についてより一貫して正確な推論を行う。
HerndonはLewicki (2005)によって明らかにされた「外部」と「内部」の符号化に関する定義を使っている。ここでいう符号化とは、私たちが、入手可能なデータに基づいて世界の意味を構成する方法のことを指す。内部符号化プロセスは、自分の過去の経験に基づいて、時には経験に関係がない情報に基づいて固定的なモデルを使用する。それに対して外部符号化モデルは、環境における事実に注意を払う。
Lewickiは、内部符号化プロセスは、データソースが客観的・開放的ではなく自己参照的で閉鎖的なものであるため、データの混乱に直面すると、認知のミスマッチを維持しようとすると指摘している。
例えば、内部符号化プロセスの中では、「濃い色の目の人は(A)、横柄だ(B)」というもの見方が、 (A)と(B)の関係に関する実例に遭遇することと同じ程度の経験を引き起こすことがありうる。AとBの関係を示す客観的な証拠がないにも関わらず、その考えを引き起こすプロセスは、時とともに強化され、意味づけの習慣的な方法となる。
それとは対照的に、外部符号化プロセスの中では、周囲の環境から収集したデータを使うことによって意味合いを導き出すことに注意を払う傾向がある。ある図式を裏付ける前に、周囲の世界から確定的なデータを幅広く集めることを要請する。Herndon(2008)の研究によれば、マインドフルネスと外部符号化の傾向との間には正の相関がある。
言いかえれば、よりマインドフルな人々は環境をより的確に読み取る傾向を持ち、内的なバイアスによって意味がゆがめられてしまう影響を受けにくい。
適応に関する問題に対処するリーダーにとって決定的に重要なことは、マインドフルネスは、トレーニングによって身につけることができるということである。
Herndonの研究によれば、マインドフルネストレーニングコースを受講することによって、リーダーは、自身が関わる環境に関するより正確な評価ができるようになり、誤解を招く習慣的な知覚の「目隠し」に陥りにくいということである。
この見解は、神経科学のデータに裏付けされている。Farbら(2007)によって行われたfMRIの研究によれば、8週間のMBSRトレーニングによって、物事に注意を向ける際の焦点を、物事の計画を立てる、夢を描く、繰り返し振り返るといった、物語に焦点を当てた活動に関連する神経ネットワークから、島皮質と前帯状皮質の活性化を伴う、直接の「経験に焦点をあてた」体知覚の知覚へと、より容易に変えることができるようになる。言いかえれば、知覚したことをそれらの脳領域が即座に処理しやすくなる。
さらには、比較グループと比べて、マインドフルネストレーニングを受けた人々は、物語と直接経験の状況の違いに関する認識が高く、二つの神経回路の違いをより明確に示す。 彼らはいつでもどちらの神経回路を知ることができ、より簡単にそれらの二つを行き来することができる。マインドフルネス実験の経験のない被験者は一方で、自動的に物語の回路に入っていく。
これらの結果に基づいて論理的に推定できることは、すべて他の条件が同じ場合、マインドフルネストレーニングを受けたリーダーは、トレーニングを受けていないリーダーよりも、経験に頼って反応することが少なく、状況認識のレベルが高く、客観性の水準が高いということである。
–次回に続く–
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