2014年09月23日 小島美佳 [バランスト・グロース パートナー]
私が初めて「マインドフルネス」という言葉に触れたのは、今から10年ほど前でした。その当時はとてもユニークではあるけれど確立されていない、興味深い、同時にどこか怪しさも感じる領域に思えました。しかし、最近になって「マインドフルネス」という言葉はリーダーシップの分野で随分と聞くようになり、ブームのようなものを巻き起こしているように思えます。その理由は、多くのハリウッド俳優たちや企業家、有名アーチストが瞑想を活用するようになったこと。そして何よりもシリコンバレーを代表するFacebookやGoogleといった企業がこれを取り入れ始めたからだと思います。
コーチングやリーダーシップの分野で活動する皆さんにとっては、既にご存知の流行キーワードであろうマインドフルネス。しかし、この瞑想という技術とマインドフルネスの概念が、一体ビジネスにどう効果的なのか? について明確に言える人は少ないのではないかと思うのです。本稿では、この瞑想というテクニックが どのように日々のビジネスシーンに影響を与えうるのか、その材料の一つをご提供するのが目的です。なお、マインドフルネスの定義などについては、バランストグロースが提供する別コラムを参照ください
エレンランガー教授はハーバードビジネスレビューにおけるインタビュー(2014)の中でマインドフルネスを「新しい物事に能動的に気づくプロセス」であると説明しています。この状態はあらゆる出来事に感覚を広げていく類のもので、瞑想としては「開放型瞑想」に最も近いものと言えるでしょう。周囲で起こる出来事に五感を働かせて同時並行的に意識を向け(自分のマインドの中で起こる思考、身体の感覚や感情も含めます)、それらが発生する様を観察している状態です。オーケストラの指揮者は全ての楽器の音を同時に聞ける耳を持っていますが、そんな状態をイメージしていただくと分かり易いかもしれません。
瞑想には様々な種類のものがありますが、上記のように開眼で行う開放型瞑想、あるいは一つの物体や出来事のみに集中する集中型瞑想の二つに大別できます。集中型瞑想は、自分の呼吸に集中したり、肉体、あるいはガイダンスに従うものなどがありますが、これらの瞑想はマインドフルな状態を作るものではありません。集中型瞑想は、一つのことだけに集中することでマインドの中にあるゴミを落ちつかせてスッキリする効果はありますが、いわゆる「同時に能動的にあらゆるものに気づく」ことは… おそらく難しいでしょう。
さて、あらゆる出来事に能動的に気づける状態を手に入れると、ビジネスシーンではどのような効果があるのでしょうか。前編ではEQの向上に役立つという主張を紹介させていただきました。確かにマネジメントにとって、個人やチームの中の関係性をマインドフルに把握する事は重要です。組織で何が起こっているのかを能動的に把握できないとチームのやる気を高めることもできません。
しかし、上記のようなEQ的要素はもちろんですが、実際には下記の図における個人を把握する、チームの状態を把握するだけでなく、行うべき行動(タスク)を思考する時。つまり、問題解決のシーンでもマインドフルネスは有効であると私自身は考えています。実際、高いパフォーマンスを恒常的に発揮できるビジネスパーソンは、あらゆる出来事に能動的に気づくステートを常日頃から保てているのではないかと思うのです。そして、さきほどご説明したような一切の雑念を除外し集中して物事に取り組める集中型瞑想的状態と、開放型瞑想状態のステートを無意識的にうまく切り替えているのではないか、という仮説を持っています。
このように考えると、マインドフルネスは部下を持つリーダーのためだけでなく、日々の問題解決に直面するあらゆるビジネスパーソンにも有効であると考えることが可能となってくるのです。
さて、近年「問題解決思考」といったものが随分と定着し、コンサルタントが活用するようなテクニックを多くの企業が研修で導入しています。論理的思考をベースにしたこの手法でパフォーマンスをあげていこう。恣意的、感覚的、経験則のみに頼る活動ではなく、しっかり考えて行動出来るようになって欲しい…という願いがあるのでしょう。しかし、どんなに問題解決思考が優れていても、その人物が自分自身のメンタルモデルに気づき、自らの思考の限界を理解できなければ、複雑な問題に対処することは難しくなります。
CIAの問題解決フレームワークを開発したジョセフ・キャンベル氏によると、様々な解釈が生まれやすい状況、つまり明らかな結論が導かれにくいグレーゾーンで最も問題が複雑化すると言います(The Phenix Checklist Turning Complex Problems into Simple Solutions)。そして、問題解決のために私たちが念頭に置いておくべきは、3つのレベルの前提です。 (1) “Mores” :道徳観。そのコミュニティでは当り前だと思われている事柄、(2) “Norms” その行動は許される、許されないという基準となる暗黙の了解、(3) “Rules” 文字になっており了解されたルール。特に、”Norms” はキャンベル氏によると「アイディア・キラー」、つまりアイディアを殺してしまう可能性が高いメンタルモデルであるそうです。知らず知らずのうちに、自分の中に刷り込まれた価値観や良い、悪いの判断でクリエイティブなアイディアも採択されない可能性がある。
ここでマインドフルネスが有効になる理由は、自分自身が囚われている思い込みを発見、解放する働きが得られるからです。上記の3つは「地球の重力のようなもの」とキャンベル氏は言います。常にあって当たり前の感覚の中で過ごしてきているわけですから、通常の思考状態で気づける可能性は低い。マインドフルネスは、自分を制約している思考から自分自身を解き放ち、起こっている出来事を何の視点、偏見も持つことなく観察するテクニックです。思考が暗礁に乗り上げてしまった時、議論が行き詰った時などに、最も有効なテクニックであると考えられます。
マインドフルネスによって自分の「意識に対してより注意を傾けることは、人が生まれながらに持っている、経験に基づいた習慣に従うことよりも、状況が変化した際に正確な状況理解をもたらしやすい。」また、「マインドフルネス・コースの参加者はメタ認知のスキルを間接的に、しかし非常に効果的に学ぶ」(ジェレミー・ハンター教授) ことを考えると、技術としての習得が成されるまでは時間を要するものの、マインドフルネスは複雑な問題解決に寄与できるものなのではないか、と思うのです。
今後、マインドフルネスのトレーニングを行うリーダーがどのように増えるか。また、どうビジネスの世界へこの手法が浸透するか。引き続き楽しみに関わりたいと思っています。バランストグロースでも定期的にマインドフルネスのレッスンを行っておりますので、お気軽に参加ください。
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バランストグロースがご提供するマインドフルネス関連コラムは、こちらからご覧になれます。 【ジェレミー・ハンター】
第3回:「マインドフルネス」トレーニングの内容と「マインドフルネス」トレーニングが求められるストレス状況
第4回:より効果的なリーダーシップのための「マインドフルネス」 -前半
第5回:より効果的なリーダーシップのための「マインドフルネス」 -後半
【野田浩平】 ビジネスにおける瞑想の効用
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