2017年01月17日 赤塚 丈彦[特定非営利活動法人セブン・ジェネレーションズ 代表]
私、赤塚丈彦はNPO法人セブンジェネレーションズの代表として、「持続可能で公正な未来を実現するために、目覚め続ける世界市民のコミュニティを育む」という使命のもと、米国のNPOパチャママ・アライアンスと連携しながら、ソーシャル活動への参画を促す各種プログラム提供、プログラムのファシリテーター育成、社会課題に取り組むコミュニティの育成といった活動をしている。また一方で、コーチや研修トレーナーとして企業における人材育成やビジネスマンの能力開発のサポートも行っている。 まずは今、私がこのような活動を行っている背景となるセルフ・ストーリーを共有しながら、問題提起をさせていただく。
かつては人事マンとして、社内の制度構築や人材育成といった分野に意識を向けて日々を過ごすビジネスマンだった。最初に勤めた会社がM&Aによって経営陣が変わり、元外資系出身の社長となり、さらに再びM&Aで経営陣が交代し、社内の雰囲気も大きく変化した。そんな時代の波に乗り遅れまいとキャリアアップを志して転職したITベンチャー企業では、ベンチャーであるからには上場を目指すことが当たり前だった。 社員を鼓舞するために社長は「ストックオプションでしっかり儲けよう」と口にし、それに踊らされるように働いた。
しかし、今にして思うと、かすかな違和感を胸の奥に感じながら、その違和感を無いことにしていた。”お金という「富」をよりたくさん手に入れることを目指すのは当然”という雰囲気を頭の中では疑おうとはしなかった。だから会社の成長のためという掛け声のもと、一生懸命働くのだが、頭の理解とは裏腹に、違和感にフタをした体や心は蝕まれていく。実際、何人もの社員たちが休職し、中には退職していく様子を見ることは人事部門長になっていた身として辛いものであった。そして自分自身も初めて心療内科に行ったのもこの頃だった。幸いすぐによくなり、なんとか新たな人事制度を完成させ、他社との合併に伴う制度統合等も成し遂げたが、成し遂げた喜びというよりも、やっと終わった一瞬の安堵感しかなかった。
そして次に心の中に浮かんだのは制度がきちんと機能するかどうかという不安であった。「経営陣からマイナス評価をされないか」、そして「他部署からのクレームが来ないか」など、終わることのない不安感に襲われた。ほんの小さなベンチャー企業の中でさえ上下間、部署間が一つ一つの部品のように分断され、それぞれの部署が狂いのない機械の歯車としての役割を求められる世界だった。このような空気感の中では、自由な発想で新たな何かを生み出す積極的な創造力というより、いかに失敗を減らすかという消極的なリスク回避にエネルギーが注がれる。そんなエネルギーの使い方では企業が持っているはずの本来の活力を使い切れるはずもなく、社員と共に社会に貢献していくという企業本来の姿とも大きな隔たりがあるのではないか。そんなモヤモヤした違和感を胸の奥に押し込め、当時の私はさらなる能力アップとしてコーチングやファシリテーションのスキル、MBTIの知識などを身につけ、社会保険労務士の資格も取って独立への道を進んでいったのであった。
そして独立後、仲間の助けも借りながら個人事業者として順調に数年を過ごしていたのだが、2009年、また新たなモヤモヤに向き合う機会が訪れる。 コーチングの師でありCTIジャパン(コーチ養成機関)の創設者である榎本英剛氏が米国から持ち帰ったプログラム「チェンジ・ザ・ドリーム シンポジウム」との出会いである。その出会いによって新たに向き合ったモヤモヤはビジネスパーソンとしてのものではなく、一人の人間として、子を持つ親としてのモヤモヤだった。そのプログラムで使われる映像の中に映し出される世界の現状。迫り来る気候変動、あくなき経済成長のみを優先させることによる資源の枯渇、生態系の破壊、そのことで生じる貧困や格差。そしていくら富を得ても満たされない私たちの精神。それらの課題は今、地球という大きな生態系の中で確実に存在し、このままでは子や孫、その先の世代にはどんな世界が待っているのだろう?一方でこのような状況を変えようと立ち上がり、変化の担い手として活動を進める人々。果たしてそれらの人々の手で今の世界を私たちが持続可能なものに変えることができるのだろうか? そんな新たなモヤモヤを晴らすべく、この活動に少しずつエネルギーを注ぎ、NPO設立と同時に代表となり、今に至るのである。
私が活動を始めた頃は、環境、社会、精神というキーワードで表現されるこれらの課題に対しては市民レベルでは小規模ながらも真摯な取り組みがあった。しかし、企業レベルにではCSRという言葉がやっと浸透してきたタイミングで、本業とは別に、お付き合い程度に社会貢献にも取り組むことでイメージアップを図っていた、という状況であったと思う。しかしながら、一昨年あたりから、その状況は大きく変化していると感じている。気候変動に象徴される地球という大きな生態系(エコシステム)の変化。それは当然ながら人間界にとっても大きなインパクトがあり、その中で経済活動を担う企業にとっても見過ごせないものになってきたということである。
そして、この本来の意味のエコシステムの変化が引き起こす社会的課題に立ち向かうことを自社のイノベーションの機会と捉え、積極的に取り組んで社会に貢献することは、いま企業に求められていることである。そして、それは単なる企業倫理上の建前の問題にとどまらず、企業における新たな価値創造・イノベーション・経済性の視点からも十分に見合う事例が出てきているのである。
本コラムシリーズでは、企業としてエコシステムの変化に伴う社会的な課題に真摯に向き合うスタンスを明確にとることでビッグ・ピボット(大転換)が起きること、そして、この関わり自体が次世代リーダーを育成するための重要な環境であることについて、次回以降三回に渡って書き進めていきたいと思う。
第一回(今回)セルフストーリーと問題提起
第二回 「ビッグピボット<大転換>を目指す先進グローバル企業、日本の企業の取り組み(地球〜社会〜自社の三方良し)
第三回 システムとしての地球を考えることと個人の意識をつなぐこと〜生態系的思考法
第四回 真のグローバルへと導くリーダーシップ〜優良事例紹介