プロセスワークを活用した組織開発とコーチング ~バランスト・グロース・コンサルティング

シナリオプランニング入門 第07回:問題解決から問題発見へ2014年4月22日

2014年04月22日 新井宏征

●シナリオプランニングの学び方

これまで「シナリオプランニング入門」として、シナリオプランニングの基本的な考え方をいろいろな視点からお届けしてきました。わたしがお客さまに常々お伝えしているのは「シナリオプランニングの勉強ばかりをしていても、シナリオプランニングをできるようにはならない」ということ。

そろそろこのコラムもひとまず終了として、あとはぜひシナリオプランニングを実践する場を積み重ねていっていただければと思います。バランスト・グロースとしても、今後は定期的に、シナリオプランニングや関連するテーマについてスクールで取り上げていきます。 今回のコラムは「シナリオプランニング入門」の最後として、シナリオプランニングを超えて、今この時代にわたしたちが考えなくてはならないことを改めて考えてみましょう。

●もし現代のビジネスパーソンがゴールドラッシュのカリフォルニアに行ってみたら

なんだか聞いたことのあるような響きのタイトルですが、もし皆さんがゴールドラッシュに沸く19世紀のカリフォルニアに急にタイムスリップしたと想像してください。「フォーティナイナーズ」としても知られる1849年前後のカリフォルニアにいる血気盛んな開拓者の中に混じっていると想像してください。

よくその開拓者の中には、とても慎重な人がいました。彼らは、盛り上がってはいるものの、この先どうなるかはわからないというような状況を心配しています。そこで、まず彼らは、金の探し方、見分け方から、採掘した金の処理の仕方まで、必要な知識一通りを学べるスクールに入学することにしました(フィクションです)。

そのスクールは、彼らが「フォーティナイナーズ」と呼ばれる前に金鉱に目をつけた開拓者中の開拓者が後進育成のために設立したものでした。彼らは、そのスクールでみっちりゴールドラッシュに必要な基礎知識を学びます(フィクションです)。それと平行して、効率的に金を掘ることができるセミナーに参加し、「フォーティナイナーズ倶楽部」と呼ばれる交流会にも欠かさず参加し、コツコツと貯めた貯金で必要なツールも買いそろえました(すべてフィクションです)。

そんな彼らを見て、あなたはこう声をかけるかもしれません。「そんなに準備をしたって仕方がない。ましてや、それはこれまでは効果があった方法だけど、これからもそれが役に立つかどうかはわからない。早いところ、実際に自分で現場に行って、いろいろ試しながら金を掘っていく方が確実だよ」と。

たしかにそのとおりです。すでにたくさんの人が集まっている金鉱で確実に金を掘るための勉強をしていても仕方がありません。しかも、その勉強で教えてもらえるのは、今よりもずっと埋蔵量が豊富で、掘ればすぐに山のように金が出てきた時代のこと。開拓者が大挙して、めぼしい場所はすべて掘り返されている今の状況とは状況が違います。今なら勉強はそこそこで、試行錯誤をしながら金を掘る方が確実かもしれません。

あるいはその人が本当の開拓者なら、そもそも新しい金鉱は他にないか探すことに時間を使うかもしれません。もしかすると、金の採掘者を観察し、ズボンが破れやすいという不満をよく聞くということをヒントにしてジーンズを発明して売り出すというリーバイス創業者リーバイ・ストラウスのような道もあるかもしれません。

●問題発見のためのシナリオプランニング

翻って21世紀の現代に生きるわたしたちは、フォーティナイナーズが奮闘していた時代よりも、ずっと不確実な時代を生きています。 先人が試行錯誤で蓄積してきた知識はたしかに貴重なものです。しかし、その知識をきちんと学んでおくだけではやっていけるような時代でないことは確かです。ましてや広告費に大きな金額を投資して学生を呼び込むようなビジネススクールに(仕事を辞めずに学位が取れるというメッセージにもひかれながら)通えば、それで今後の自分のキャリアは安泰という時代ではありません。お金をかけてクリティカル・シンキングなどのコースを受けていれば大丈夫というわけではありません。

そう、時代が違うのです。 ドラッカーが言う「知識労働者」にこれまで求められていたことは、問題を解決できることでした。もちろん、問題を解決できることは大切です。しかし、現代という時代において、それ以上に大切なことは何が問題かを見定めること、言い換えれば、問題を発見することです。

わたしたちの周りを見渡してみれば、何が問題なのか一見すると良くわからないものがあふれています。そして、わたしたちは問題そのものではなく、問題によって現れている現象を見て、「これが問題だ。これはけしからん!」とわめき立て、時間を浪費しています。

では、どうすれば良いのか。問題を発見するためには、何かわかりやすい手法があるわけではありません。ビジネスに限らず、いわゆる「教養」と呼ばれているような、時代を超えて引き継がれてきた知恵を身につけることは大切です。その過程で、さまざまな人との対話を経て、視点を広げることも欠かせません。

学び続けることを忘れず、世の中をより一段高い視点から見ながら、わたしたちが本当に解決しなければいけない問題は何なのか探す努力を惜しまないこと。そういった地道な取り組みを経ることが、実は一番の近道なのかもしれません。 シナリオプランニングは、そのような過程を、誰でも取り組みやすい形で整えた手法のひとつです。この手法がすべての答えになるわけではありませんが、少なくとも、わたしたちの視点を一段上にあげてくれる、有益なツールだと信じています。

今後、バランスト・グロースでは、シナリオプランニングを用いた取り組みも続けながら、わたしたちが解くべき問題を正しく見極められるよう、さまざまな取り組みを行っていきたいと考えています。