プロセスワークを活用した組織開発とコーチング ~バランスト・グロース・コンサルティング

実録シリーズ② 製造部長と人事部長が悩んだ現場症状/第2回:成果につながらないチームビルディングは行わない2020年4月7日

実録シリーズ② 製造部長と人事部長が悩んだ現場症状
第2回:成果につながらないチームビルディングは行わない

売上高1兆円以上のグローバル企業A社、一般的には「エクセレント・カンパニー」と言われる企業の製造現場で実際に起こっていた「非常に生々しい」問題症状を見立て、打ち手を施す変革プロジェクトをお手伝いする機会を頂きました。本コラムでは3回にわたり、その事例を紹介いたします。(執筆:山碕 学)
*尚、機密保持の関係上、匿名性を担保しながら、可能な限り実態と実際が伝わる内容となるよう工夫しています。

 

人・組織の課題へのアプローチの基本は「診:診断する」「証:症状を見立てる」「療:治療する」という3つのステップですが、この「療」の部分に『成功循環創造を目的としたチーム・コーチング』を導入することが効果的な場合も多いと思います。

 

前回(第1回:間違った見立て、間違った打ち手 )ご紹介した、問題症状を「診」(実態を把握する)⇒「証」(見立て)の結果、我々は鈴木製造部長、佐藤人事部長とどのような手を打ち、どのような結果となったのか、ご紹介していきます。

この組織に起こっていた問題は、「診」「証」の結果、下図のような見立てをしました。
(第1回からの再掲載)

 

別の視点で見た「証」

「療」に入る前に別の視点も重要でした。
別視点とは、『今の組織の状態から見て時間軸的にどんな手を打つべきか?』
『問題解決のためのチームの実力というリソースはどれだけあるのか?』
という問いです。

時間軸としては、チームが崩壊直前で既に緊急事態であったこと、
チームの実力としては、
課長、主任には「短期間で」問題解決するチカラが不足している、
部長は製造部全体の重要プロジェクトにもアサインされていて、この問題に費やせるリソース(工数)が多く取れない状況であった、
ということです。

 

「療」打ち手(治療法)

「証」の結果をまとめると、
・急がなくてはならない(課長の成長を待っていられない状況)
・マネージャ個々のチカラが弱い上、部長には工数がない
・業務問題を解決しなければならないが問題解決の役割を担う機能・役割がなくなっている
・チームの関係性=マネージャと現場の関係性は最悪の状態
といことです。

この状況の中での打ち手のポイントは、
◆業務問題解決と関係性改善を同時実行する
◆個人のチカラではなく、三人のマネージャチームをつくり解決する
   (一本の矢ではなく三本の矢で)
◆三人でも不足する力を補うために「業務問題解決できる機能・役割(社内コンサル)」を探す

外部が問題解決するコンサルティングではなく、組織の中で問題解決できるようになる「マネージャ三人へのチーム・コーチング」です。

具体的な打ち手は、下図の通り。

2週間に一度のチーム・コーチングセッションで最初にマネージャーチームとコーチが合意したことは、

メンバーの業務(タスク面)の困り事解決に焦点をあてたチームコーチングであること。
コーチングを通しての「業務問題解決を目的とした」マネージャ・チームのチームビルディングが重要であること。
現場との関係性改善は、業務問題解決のための手段と位置付けること。
です。

チーム・コーシングを通して、マネージャ・チームが実行に移した行動は、

① メンバー全員への「問題解決宣言」
② キーパーソンとの問題解決に向けた対話
③ 主任が毎日実施するメンバーとの「困り事をテーマとした1on1」
④ 社内コンサル課長による現場改善アドバイス(3ヶ月間限定)

②③の取り組み方針は、
・まずは「聴く」ことに徹すること。
・問題解決のアイデアも現場からもらう(聴く)。
・解決策の検討・決定は、その場では行わない。
・解決策は、3人で考える⇒社内コンサル課長のアドバイスを受ける⇒チーム・コーチング・セッションで全体最適をチェックする、という手順で決める。
こととし、
マネージャ・チームが苦手な問題解決のプレッシャーから解放したこともポイントです。
そして、外部の知見から得た解決策をマネージャ・チームが現場に落とし込んでいくことで小さな成功体験を獲得していきました。
実際には、最初は現場への落とし込みも社内コンサル課長のサポートを受けました。

また、これらと並行して、精神的ストレスの大きかったチームリーダー(TL)へのカウンセリング(1on1)を実施しました。

 

結果/成果

上記のような打ち手を施し、マネージャたちが部長や隣の課の課長の支援を受けながら、三人一緒に不安を乗り越えて実行した結果、下記のような成果が生まれました。

●現場の症状が快方へ
チーム・コーチング開始3か月後、問題症状が快方に向かい、業務品質が改善し始めた。離職者が出ず、現場の雰囲気が明らかに良くなった。

●主任の成長
主任が1on1を通した現場との対話と社内コンサル課長からのアドバイスにより問題解決に自律的になり、リーダーシップを発揮し始めた。

●鈴木部長のリーダーシップの幅の拡大
『一つの「課」にリソースを集中できない中で課の変革を進めるための「変革のコンテナー(器)」機能をとることが重要であることを発見。そのあり方・やり方を経験から学んだ。
部下から相談される関係性を築き、限られた工数の中で課をサポートし、助言するためのサーバント・リーダーシップを体得できた』(鈴木部長談)
その後、チーム・コーチングを活用した問題解決において成長の姿が見えない課長の異動を意思決定されました。コミュニケーション力、マネジメント力に期待できる新任課長のアサインです。
加藤課長は部長が抜擢指名した経緯もあったため、断腸の思いもあったようですが、問題を引き起こした部長自らの反省も含めた、覚悟の課長交代の意思決定であったようです。
また、田中主任の成長が意思決定の後押しの要素になったようです。

※この課長交代の意思決定は、今後、同じような問題が起きないようにする是正対策です。
崩壊直前の組織で応急対策を打ち、安定状態が見え始めたタイミングで打つ是正対策への移行です。

●佐藤人事部長の事業部門サポート力
『「問題社員」という「個人」に焦点をあて「チームの関係性=チームビルディング」という打ち手から入ると手遅れになっていた、という気づきがあった。また、人事部門が事業部門のビジネスパートナーになるため(BP化するため)の必要な知見と実体験を得た。
特に「診」「証」「療」の手順と「診」の重要性を痛感した』(佐藤部長談)

まとめ(この事例を通して)

マネージャ層と現場の断絶、断絶を埋める関係の質改善を最重点課題とするのではなく、
マネージャ層と現場に『①タスク面の問題解決という主題の軸を通し』て、
マネージャがリーダーとして現場の問題解決にコミットする『②リーダーシップを立て』、
問題解決のための対話を通して『③関係性を作り直す』。
また、タスク面の問題解決を外部コンサルに委託するのではなく、社内のリソースを活用し、社内人材へのコーチングで、外部に依存しない「成功循環を創造する」。
このようなアプローチは有効です。

「チームビルディングや関係性改善のみに焦点をあてた組織開発は、ケースによっては有効ではない」「外部依存という体質を残さない」ということを肝に銘じておくことも組織開発に携わる者にとっては大事なことではないでしょうか。

 

次回(第3回)では、この事例を「プロセスワーク」の観点から分析してみたいと思います。

→(第3回:プロセスワーク(組織の関係性心理学)の視点で読み解く

*プロセスワークとは
物理学者、ユング派分析家でもあるアーノルド・ミンデルが創始した心理手法であり、プロセス指向心理学とも呼ばれる。問題や課題には意味がある、という目的論の視点に立ち、気づきの力を養うことで本質的な変化が起きることを促していく。