2014年09月22日 松田 栄一[バランスト・グロース 代表パートナー]
連載第6回目の今回は前回に引き続き「企業事例(3)」としてB社研究所のチームコーチング事例をご紹介して行きたい。 第3節:企業事例 4.B社研究所のチームコーチング 第4節:組織開発コンサルタントになるための勉強方法
◆状況:外資系某メーカーの日本法人の研究所。研究所が出来て20年あまり。R&Dのグローバル化の波に乗って作られたこの研究所であったが、この10年はR&Dよりは現場への技術サポートサービス提供が中心に日本人研究所長に慎重なマネジメントが実施されてきた。そうした中で所長が交代することになった。 人事部からの相談は、研究所トップのトランジションがスムーズに行くためにエグゼクティブコーチングをして欲しい。また新研究所長は研究者としては知識も経験も十分だしMBAも持っているが、実際に人/組織を動かしていくと言う側面については疎いので、コーチングだけでなく組織づくりについて色々サポートをして欲しいということだった。 今回のケースでは我々の見立ては省略し、エグゼクティブコーチング、ワークショップ、チームコーチングを組み合わせながら組織開発的なかかわりをしていった流れをご紹介したい。
<全体の流れ>
◆Phase1 エグゼクティブコーチング よくあるエグゼクティブコーチングでは、シニアマネジメントにリーダーシップ上の問題行動があり、それを是正する形で行なわれることが多いと思われるが、今回は本人が研究所トップとして「どのような組織の在り方を望むのか」「自分はどのような所長になりたいのか」「その時に自研究所はステークホルダー(米国の研究本部やその他の国の研究所との関係、営業部門や製造部門との関係)とどのような関係でありたいのか」「ありがい姿に向かうために重要かつ未解決な課題は何か」等をコーチングを通じて浮かび上がらせていくことをテーマに5ヶ月間のコーチングを行なった。
◆Phase2 ワークショップ 次のフェイズではエグゼクティブコーチングで浮かび上がってきた「理想の組織像とそこに向かうための課題」を組織メンバー間で共有するために、研究所の正社員約30名を集めて1泊2日のビジョン共創とチームビルディングワークショップを行なった。幾つかの重要なアクションが決まったが、1つはボトムアップ(若手研究員主体)で具体的な課題解決アクションラーニングと勉強会をミックスしたものを実施していくこと、マネジメントチーム(所長以下5人)は彼らが育つ環境づくりをすること。
◆Phase3 チームコーチング ワークショップで共有したビジョン実現に向けての動きサポートするために、マネジメントチームの関係性(お互いのかかわり合い)の質向上、及び各人のリーダーシップの開発を目的にチームコーチングを5ヶ月間にわたって実施した。 チームコーチングはコーチングの形態としては新しいものだが、最近はそのニーズが急速に高まっている。人は増大する内外環境の複雑さに対処する役割を1人のリーダーに期待するが、通常これらの課題はリーダー個人の対応能力をはるかに超えているため、リーダーチームとして対応力を向上させる必要が高まってきているのがその理由だ。
また、研究者に限らず、日本の管理職は個人の発達とチームの発達を混同している場合が多い。グループコーチングとチームのコーチングの違いや重なる部分についても理解されていないことも多い。一般的にグループコーチングは6名程度のグループを組んで、その中の1人が課題提示者となり、その他のメンバーはその課題提示者の課題解決に向けたコーチングリソースとなるが、あくまでも個人のコーチングを集団で行なっている(グループコーチングの代表的な例は「質問会議」と言われるジョージワシントン大のマーコード教授が開発したアクションラーニングモデルが有名)。一方、チームコーチング(システムコーチングと言ったり、関係性コーチングと言ったりもする)は対象が個人ではなくチームそのものである。チームの発達段階モデル※やベルビンのチーム役割モデル※を使いながらチームとしての発達を促していく。 チームの関係性の状態を見ながら、グループコーチングで数ヶ月実施する場合もあれば、最初からチームコーチングを実施することもある。今回のケースではミックスして用いた。
※発達段階モデル:タックマンの形成期-混乱期-統合期-機能期が有名だが、他にもある。例えば古川久敬著「チームマネジメント」(日経文庫)では次のモデルが示されている
レベル1円滑な連携:ホウレンソウ、情報共有、円滑な人間関係
レベル2役割を越えた活動:チーム全体を考慮して役割の柔軟な変更、役割外行動
レベル3創発的コラボレーション:知的相互刺激、情報練り上げ、創造的な知識の触発や具体化
※役割モデル:役割には組織図や職務記述書に書かれるような外的役割とチームの関係性の中で自然と担われる内的役割(例えばお「父さん役」「お母さん役」や、「発起人」「嫌われ者」「邪魔するもの」「仲裁者」など)がある。内的役割は無数のものがあり得るが、例えばベルビンの下記モデルが有名。チームにとって必要にも関わらず十分に満たされていない役割は何か、ある役割を誰かが抱え込み過ぎていて、他の人がその役割を担うことを阻害していたり、疲弊して嫌悪感を抱いている人はいないか。役割=個人ではないので、チームとして必要な役割をどのように担うかを話し合うことが重要である。
1.プラント(PLANT (PL)):創造力があり困難な問題を解決できる人
2.資源探索者(RESOURCE INVESTIGATOR (RI)):外交的で熱中しやすく、好機を探る人
3.コーディネーター(CO-ORDINATOR (CD)):優れた議事進行者で、明確な目標を示し意思決定を促すことができる人
4.形づくる人(SHAPER (SH)):挑戦的で、精力的に障害に立ち向かっていける人
5.チームワーカー(TEAMWORKER (TW):協調性があり、もめごとを避けるタイプだが、人の話をよく聞き築き上げる人
6.実行者(IMPLEMENTER (IM):有能で頼りがいがあり、アイデアを実行に移せる人
7.補完的完成者(COMPLETER FINISHER (CF):勤勉で誠実な仕事を納期通りに行う人。また自分や他者の誤りや手抜きに厳密な人
8.スペシャリスト(SPECIALIST (SP)):特定分野の知識やノウハウをもつエキスパート
9.モニター(MONITOR Evaluator):優れた戦略的判断力持つ人
◆結果: 自分たちがこれまではチームとしては機能していなかったことの理解。組織の戦略についての合意と、それを組織全体で共有して、前に進むために若手と様々な対話が起きてきたこと。またマネジメントチーム相互でサポートし合う行動が増えてきたこと。
第1章の最後に、全くの私見であるが、組織開発コンサルタントになるための勉強法として下記をお勧めしたい。 Step1.組織開発コンサルタントに必要な5つの知識領域を学ぶ(下図) Step2.経験を積む(実際の組織を診断する/介入を設計する(個別組織/全社)/介入できるようになる(外部コンサルタントと共同で又は単独で) Step3.独自の介入モデル=自社オリジナルのワークショップ・パッケージ商品(exワークアウト)を創る
<ODプラクティショナーのための5つの知識領域>
グループダイナミクスの理解・体感: プロセスワーク理論の組織への応用については日本プロセスワークセンター、ORSC等の公開講座がある。
組織変革のデザイン: バランスト・グロースでも「プロセスワーク理論の体感・理解」と「組織変革デザインを設計する力」をテーマにしたセミナーや研修を提供しているのでお気軽にお問い合わせ頂ければ幸いだ。(公開講座については不定期開催)
個別ツール: ワークアウトについては「GE式ワークアウト」スティーブカー他著(日経BP社)、AIについては「ポジティブ・チェンジ〜主体性と組織力を高めるAI」ダイアナホイットニー他著(ヒューマンバリュー出版)、アクションラーニングについては「質問会議」清宮 普美代(PHP研究所)等がある。
システムシンキング: 「学習する組織」ピーターセンゲ著(英治出版)、「なぜあの人の解決策はいつもうまく行くのか?」小田理一郎他著(東洋経済新報社)の他、有限会社チェンジージェント等が各種セミナーを提供している
思想/哲学: 老荘思想、複雑系、ニューエイジ系など古典哲学と最先端の物理学や生物学との融合するところに大いにヒントがある。
さて、組織開発コラム第1章としては今回のコラムで終了となるが、第2章では組織開発コンサルタントとしての勉強をサポートするものを書いていきたいと思う。例えば、プロセスワーク理論を分かりやすく解説したり、PMI(Post Merger and Integration企業統合後の組織文化融合)などの個別テーマを扱ったりすることを考えている。また出来るだけ皆さんの関心や疑問にお答えしていきたいので、是非質問やコメント等もお気軽にお寄せ頂ければ幸いだ。
第1章組織開発の基本(目次)
第1節:組織開発とは何か
第2節:組織開発プロセスで使う道具を俯瞰する
第3節:企業事例
第4節:組織開発コンサルタントになるための勉強方法
・組織開発の基本 第01回:第1節:組織開発とは何か
https://balancedgrowth.co.jp/column/odorganization_development.php
・組織開発の基本 第02回:第2節:組織開発で使う道具を俯瞰する(前半)
https://balancedgrowth.co.jp/column/od2.php
・組織開発の基本 第03回:第2節:組織開発で使う道具を俯瞰する(後半)
https://balancedgrowth.co.jp/column/od3.php
・組織開発の基本 第04回:第3節:企業事例 (1)
https://balancedgrowth.co.jp/column/od4.php
・組織開発の基本 第05回:第3節:企業事例(2)
https://balancedgrowth.co.jp/column/od5.php
・組織開発の基本 第06回:第3節:企業事例(3)、第4節:組織開発コンサルタントになるための勉強方法
https://balancedgrowth.co.jp/column/od_6.php
・組織開発の基本 第07回 第2章プロセスワーク理論 第1節
https://balancedgrowth.co.jp/column/odchapter21.php
・組織開発の基本 第08回 第2章プロセスワーク理論 第2節
https://balancedgrowth.co.jp/column/odchapter22.php
・組織開発の基本 第09回 第3章プロセスワーク理論 第3節
https://balancedgrowth.co.jp/column/odchapter23.php
※ 関連する動画を、バランストグロースのYoutube チャンネルでご覧いただけます。
組織開発(OD)とは何か
https://www.youtube.com/watch?v=Qf2hg3ALv84&t=1082s
組織開発で使う道具を俯瞰する
https://www.youtube.com/watch?v=1mjg468lra8&t=5s
組織開発の企業事例
https://www.youtube.com/watch?v=QxIfmQfi7dc
組織開発の企業事例 パート2
https://www.youtube.com/watch?v=clKg7oo7c5I&t=17s
3匹のヤギ
https://www.youtube.com/watch?v=WFFogwE10mQ&t=43s
プロセスワークの5ステップ
https://www.youtube.com/watch?v=nlrXdQnjVH4&t=54s
DVFR変革モデル