VC型上司の時代-社内でイノベーションが起きるリーダーの条件(7)

細谷淳 ベンチャーキャピタリスト
VC型上司の時代-社内でイノベーションが起きるリーダーの条件(7) 第3章  VC型リーダーの行動様式 

※これまでのコラムは下記のリンクをご覧ください。

VC型上司の時代―社内でイノベーションが起きるリーダーの条件(1)
VC型上司の時代―社内でイノベーションが起きるリーダーの条件(2)
VC型上司の時代―社内でイノベーションが起きるリーダーの条件(3)
VC型上司の時代―社内でイノベーションが起きるリーダーの条件(4)
VC型上司の時代―社内でイノベーションが起きるリーダーの条件(5)
VC型上司の時代―社内でイノベーションが起きるリーダーの条件(6)

第3章  VC型リーダーの行動様式 

VC型リーダーの話に入る前にVCという職業人に求められている二つの相反するキャラクターについて触れておきたい。一つは、「男気」であり、今ひとつは「狡猾」である。前者は言うまでも無く、起業家の理念に共感しその情熱に自らも男気を持ってリスクを果敢に取りに行く、懐の深い勇敢なサムライそのもののイメージである。一方、エンジェルの自己資金投資ではなく調達した資金を運用する立場から、リスクを他者に押しつけてでも利益を確保し損失を免れる姿勢も当然必要であり、それが後者ということになる。何事もきれいごとではでは済まされないという話とも言えるが、VC型上司の可能性を吟味する上で私はこの双方が重要な役割を果たすのではないかと考えている。狡猾はネガティブに聞こえるが、それはしたたかさと同義であり、組織の上層部に対し逆風下においても一定の結果を出したことをアピールすることに繋がる。またそれ以上に損失を最小化し不必要に責任を被らずに済ませることに意味がある。なぜなら、それが社内起業家志向の部下を守ることに直結し、延いては組織内で起業家精神やリスクにチャレンジする文化を維持することになるからである。前章で述べたように、極少数のRisk Takerがチャレンジする一方で組織全体の意識はRisk Averseへと向かうのが常なので、失敗の大小にかかわらず周囲の揚げ足取りのトラップは避けて通れない。結果に責任を負う姿勢に否定すべき要素はないが、潔さだけでなく「存続させてこそ」の役割も考えなくてはならない。

以上の観点におけるVC型リーダー(上司)に期待される役割は以下の3点に整理できる。

(1)職人型リーダー(部下)の擁護者&メンターとして

部下が職人気質のリーダーシップを発揮し、一見正気とは思えないinsane ideaと出会って起業家精神を発揮したとき、当然のように組織からは浮いてしまい、多くのケースでは事業化へ向けた意思も行動も頓挫する結果に終わる。しかしこれは部下を育成する上でまたとない機会の筈であり、また組織にとっても新規事業に繋がらずとも活性化された企業文化の醸成に好ましいことである。それを成就させるため、これらの擁護者となり、メンターとなることが本来求められる。成功の確度を上げ、モチベーションを維持し、リスクをコントロールするためにメンタリングは欠かせないが、これについてはこの後に詳しく触れたい。ここで大事なのは性急に結果を出すことでなく、長期的視野で部下を育成する姿勢である。

(2)したたかな政治家として

私自身に欠落している素養の内でその最たるものがこれであると言えるので、偉そうにリストアップするのは誠に気が引けるが、苦手だからこそその必要性を理解しているということでお許し頂きたい。残念な話であるが、組織内ではリスクに果敢に挑んで未知の高みを目指すよりも他人の揚げ足取りで相対的に優位に立つ方が遥かに簡単に高評価を得られる。この場合、重要なのは個人に降りかかる責任を如何に回避し他人に押しつけるかであるが、先述したようにチャレンジする部下を擁護しつつ前向きな企業風土を維持するためにこの政治家としての立ち振る舞いは必要悪である。狡猾に投資リターンを稼ぐVCの資質をこの目的に利用することを憚ってはいけないのであろう。このためには相手によって話し方を変え、事実を多少歪曲するスキルも必要となる可能性があるが、報告義務のある上長の理解度や胆力に応じた対応が求められるのは実務上散見されるところである。(しかし、やはり私には難しい。)

(3)トリックスターとして

低い成功確度と向き合いながら、それを正当化する作業は論理的に進めているだけでは困難であろうことは容易に想像が付く。時には秩序をかき乱す乱暴な刺激を組織に振りまく役割を担うことが必要となることがある。目的は何より企業文化を変革することで、前章の最後に述べた通りである。また、周囲の意識を部下の社内起業行為から逸らせることで期待値のコントロールと失敗のダメージを緩和する狙いもある。ただし、これも想像に難くないが、やり方とタイミングには慎重を期するべきだ。やり方としては、新潮流として世界の勢いあるベンチャー事例を多用して消化吸収する前に皆の思考を一次的に麻痺さるとかが思いつくが、これは自己の信念に基づいてやるものであることは言うまでもない。タイミングについては、新規事業に一定の成功が認められたときや投資案件のキャピタルゲインが実現したとき等、周囲への影響力や寛容を得られる時がやはり無難であろう。

 

図 9 VC型上司に期待される役割

ところでVCは実際に投資する案件の数を遥かに超える件数のベンチャー企業と日常的に接しているわけであるが、僭越な表現ながらそういった投資前の段階からメンタリングやコーチングは始まっている、と言える。特定の市場や技術に対する専門性を常にアップデートすることは限界があるものの、多くのDeal flowに日夜接していることによる類似案件でのDue Diligenceから学ぶこと(もちろん守秘義務には配慮しつつ)や、それらとの相対比較によって目の前の起業家にフィードバックを与えることが出来る。起業家に不足している視点も補い、漠然とした勘(これも尊いものである)に依存した計画に対してロジカルな根拠を与えて普遍的な価値を見出すこと等が重要な役割となる。その結果、また計画をブラッシュアップした後に真っ先に訪問を受けるような関係構築に繋げることが可能となる。重要なのは、長期的な視点に立ちつつも、瞬間的に良いか悪いかを判断し明瞭なメッセージを伝えることだと感じている。また、以前も触れたようにこういった投資へ踏み出す前のやりとりが数年に渡ることさえあるが、この作業を少額投資と共によりシステマチックに深化させたのがインキュベーション型ファンドということになろう。

投資後においても依然として黒子に徹するが、こうした起業家との向き合うことは頻繁に行われ、安定したら定期的なBoard meetingへと移行していく。そこでは前回での目標設定を踏まえてその結果を共有し、軌道修正を行い、不足分の指摘やそれを補う方法について議論する。革新的で独創的なアイデアを編み出すのは主役である起業家であり、VCとしてはそのポテンシャルを如何に引き出せるか、それも有限のリソースを最も効果的に使う制約条件の中でというのが、金の卵を選別する「目利き力」以上にVCに求められる能力といっても過言ではないだろう。

このような日常的な作業や期待される役割は、組織におけるVC型上司としても十分に応用され得るものではないだろうか。

次回は「第4章 処方箋はあるのか−組織内の生態系を徐々に整える」です。

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