VC型上司の時代-社内でイノベーションが起きるリーダーの条件(8)

細谷淳 ベンチャーキャピタリスト
VC型上司の時代-社内でイノベーションが起きるリーダーの条件(8) 第4章 処方箋はあるのか−組織内の生態系を徐々に整える

※これまでのコラムは下記のリンクをご覧ください。

VC型上司の時代―社内でイノベーションが起きるリーダーの条件(1)

VC型上司の時代―社内でイノベーションが起きるリーダーの条件(2)

VC型上司の時代―社内でイノベーションが起きるリーダーの条件(3)

VC型上司の時代―社内でイノベーションが起きるリーダーの条件(4)

VC型上司の時代―社内でイノベーションが起きるリーダーの条件(5)

VC型上司の時代―社内でイノベーションが起きるリーダーの条件(6)

VC型上司の時代―社内でイノベーションが起きるリーダーの条件(7)

 

昨今の国家第一主義や民族至上主義への回帰傾向は、1970年代から続いてきた国家単位を超えた人類レベルでの利益調整を模索する努力に逆行するものである。そもそも国家単位での利潤追求を突き進めた結果、それでは立ちゆかなくなったためにこの難題に向き合うようになったのであるから、何度も揺り戻しのチャレンジを受けようとも進むべき方向に変更はないと信じる。

投資の現場では、ビジネスモデルを理解する上でUnit Economyを考えることことで単純化を試みることがある。顧客単位やtransaction単位で経済合理性や利益率を考え、その集積として企業の事業性を考えるのである。しかし、製品やサービスの提供と収益の源泉が必ずしも一致しないビジネスモデルが勢いを持つようになった現在では、このアプローチは従来ほど有効ではなくなっているように思う。

話が飛躍しすぎかも知れないが、このような現象を見るに付け、会社組織においてもシマ争いに終始し全体利益こそ優先されるべきであることを忘れがちである日常に既視感を覚えざるを得ない。国家というユニットは既に十分大きいが、人類レベルという真のグローバル視点での最適化志向は、会社組織というユニバースにおいて各事業ユニット、部署単位でリーダー達がどのような意識で臨むべきかの示唆を与えるように思えてならない。

第二章で社内VB(多くの場合では組織だった新規事業部門でも)が直面する課題として「社内リソースの確保」を真っ先に挙げた。また第三章でもVC型上司に期待される役割の一つに政治的手腕や手練手管で必要なリソース(人的・資金的)を確保することとした。考えるまでもなく、社内VB、とりわけ大手企業のケースでは本来リソースの社内調達が可能な環境下にあることが最大のアドバンテージである。ただしこのことは、これまで述べてきたように組織の壁に阻まれ、既存事業の円滑な運営が優先される大義の下一筋縄ではいかない。では、VC型上司(あるいはVC型リーダー)ならどうこれに対処するか。

本来、社内の非協力の源泉は足下業務の効率しか念頭にないリーダーレベルの利己主義に加えて、各主要メンバーレベルにおける以下のような要素が考えられる。

  1. 非合理な平等主義もしくは新規事業に対する格下認識
  2. 利益貢献へのタイムラグと人事評価での反映(報酬とキャリア)

各リーダー陣の意識を直ちに根本から変えることはほぼ絶望的に思われるが、有能な実務家層(若手であるほど好都合)に働きかけることは極めて有望である。なぜならその行為は通常のVBが人材を外部から獲得するプロセスと大差ないからである。従い、ここはスタートアップ的アプローチが有効であり、VC型リーダーとしてその手法を応用することで活路が見いだせるはずだ。即ちそれは上記a.b.に関して以下のようなものになる。

  1. 社外組織による権威付け、箔付けを行う
  2. 適格人材のあぶり出しと、社内副業モデルによる報酬とキャリアップ

これらに加えて、

  1. アライアンス先の確保に似た、相互依存の利益共有パートナーを社内の別部署に求め、
  2. Exit戦略宜しく、新規事業の引継先の確保

等を模索していくことになる。

<バカにならないスター誕生型イベント型〜隠れた志士の発掘>

先ず、a. 社外の権威付けだが、これは社内でなく外部によるPitch Eventやスタートアップ・コンテストなどの活用が手っ取り早い。さらに言えば、その結果として金額の多寡によらず外部資金の調達を勝ち得ることでより明確に事業の将来性にお墨付きを得ることができる。社内の同様なイベントは、単にブームに乗った、開催自身を目的化しているものか、または社員の意識開発・啓蒙活動の一環だったりするため役に立たない。

ただし、社内に埋もれている未覚醒の人材、隠れた志士の発掘にはこのような機会は確かに有効で、社内起業予備軍やコンテスト入賞の社内VBや新規事業プロジェクトに合流していく存在に刺激を与える役割としては捨てたものではない。

別のアプローチとして、組織のトップダウンによる強力なリーダーシップでこの作業を端折ることが可能であるが、社内の納得性という点ではしこりや軋轢を生みやすく、また比較的長期に安定する経営基盤が前提となるため万人向けではない。

<裾野戦略としての風土改革:クラウド・ソーシングと社内副業の活用>

次にb.のソーシングとインセンティブ設計であるが、幸いなことに世間での話題性に便乗して、クラウドを使った適材のあぶり出しと、働き方改革に端を発した社内副業を制度的に組み込む提案をしてみたい。そもそも、社内でビジネスプラン・コンテストをやるような会社なら、受け入れやすいのではないだろうか。いきなり退職してVBに飛び込む勇気はないし退職意思があるわけでもないが、自らのキャリアアップの機会としてや将来的なキャリア選択の自由度確保などを目的に副業希望登録を促すことは現実的な解だと考える。当初は定時以降の時間や休日を活用することから初めて所属部署の理解を得やすくし、副業として新規事業の成功の果実を分配される、その実績が評価にフィードバックされるなどのインセンティブ・スキームを考案してみる余地は十分にあるのはないだろうか。

<ビジネス提案を行うプロデューサーとして>

そして、c.d.は通常のVBが発展する際の正念場でありクライマックスであるが、最終的に単に引き取らせるという認識を持つ結果に終わらないよう、段階を経た事業場の関係造りをプロモートすることに注力すべきである。

メーカーであれば、量産開発やコスト管理、流通、マーケティングなど、VBが通常外部に依存せざるを得ない機能を提供する関係が構築できる。既存製品とのカニバリを避けるブランディングなど会社全体の総合力強化に貢献出来ることは多い。

次回は「第5章  日本型ベンチャー企業生態系ーエコシステム」について書きます。